会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

オックスフォード・レポートに異議あり(週刊経営財務)

週刊経営財務の9月10日号に青山学院大学の橋本教授による「オックスフォード・レポートに異議あり」という解説が掲載されていました。

オックスフォード・レポート(オックスフォード・レポート「日本の経済社会に対するIFRSの影響に関する調査研究(The Impact of IFRS on Wider Stakeholders of Socio-Economy in Japan)」)については、当サイトでも取り上げましたので、ご覧ください。

http://ivory.ap.teacup.com/kaikeinews/5386.html

橋本教授は、オックスフォード・レポートの結論を簡単にまとめたうえで、大きく分けて7つの点で批判的検討を行っています。以下、その抜粋、要約です(7番目はよく理解できなかったので省略します)。

(1)IASBのレトリックに対する批判について

本報告書は、IASBが主張しているレトリックの危険性について論じているが、例えば、「IFRSの性急で強いフォームでの強制アドプション」など、同様のレトリックを含むと思われる用語が繰り返し使用されている。

また、IFRSの導入方式に関しては、さまざまなものが想定されるが、「性急で強いフォームでの強制アドプション」以外のその他のIFRS導入方式については、明確な検討が加えられていない。

(2)インタビュー調査について

本報告書は、主としてインタビュー調査に基づくものとされており、インタビュー対象の選択にバイアスがないかどうかについては確認できない。

財務諸表利用者である投資家やアナリストへのインタビューは、全体の10%にすぎず、そのウエイトは、外国政府機関(および関連機関)、我が国の政府・監督機関、作成者である企業等に比して小さなものとなっている。

(ただし、これらの点については報告書の補節などにおいて認識はされている。)

(3)「公正価値」に対する批判について

公正価値は市場から入手できるため、独立的な情報価値を有さず、むしろ市場から独立した取得原価情報の方が情報の有用性が高いとの指摘があるが、個別資産の公正価値については、財務諸表利用者は知り得ないため、必ずしも情報価値を有さないとはいえない。

公正価値会計がもたらした問題としてオリンパス事件をあげているが、オリンパス事件は、我が国の会計基準の下で時価のある金融商品について、取得原価測定から公正価値測定へと移行する際に、金融資産に生じていた損失の発覚を恐れた経営者が損失を隠蔽するために行った不正会計として理解すべきである。

(4)のれんの非償却の影響について

のれんの償却がなくなることで原価計算に影響が生じる旨の記載があるが、「非原価化」が製造原価の計算要素にならないという意味であれば、のれんの当期償却額は、日本基準の下でも販売費及び一般管理費の区分に表示することとされており、我が国の会計基準の正しい理解に基づく記述とはいえない。

裁量的なのれんの減損によるビッグバスを効果的に活用できないことを考慮して、のれんの非償却の影響を考慮すべきとしているが、これは健全で倫理的な議論とはいえない。

(5)「透明性」および「比較可能性」について

本報告書においては、IFRSの適用により「透明性」や「比較可能性」が阻害されるとの認識が示されているが、そのような明確な根拠は示されていない。

洗練された注意深い投資家からは、公正価値や資産・負債アプローチ、包括利益への批判的な見解が提示されているとしているが、それを裏付けるような投資家へのインタビュー結果等は示されていない。

(6)同等性評価について

EUの同等性評価において、我が国会計基準はIFRSと同等であると認められたとの認識が示されているが、この同等性評価は、重要な差異を解消するとの合意を公表したことを前提とするものであり、当時の会計基準の静態的な比較によるものではない。

また、EUの同等性評価は、投資家が株価のディスカウントや金利のプレミアムを要求することなどによる企業の不利益が生じないことを意味するものではない。

詳しくは経営財務をご覧ください。

橋本教授には、「異議あり」シリーズで、田中弘教授による一連の反IFRS本なども対象にしてもらいたいものです(そんなひまはないかもしれませんが)。

IFRSはこうなる―「連単分離」と「任意適用」へIFRSはこうなる―「連単分離」と「任意適用」へ
田中 弘

by G-Tools

(少し古くなってしまいましたが、そのうちに同じようなのが出るでしょう。)
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