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「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等の公表(企業会計基準委員会)

実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等の公表

企業会計基準委員会は、実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」を、2020年9月11日に公表しました。

あわせて、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」(企業会計基準第 5 号の改正案)と同適用指針(案)(企業会計基準適用指針第8号の改正案)も公表しています。

2019年12月に成立した「会社法」改正において、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められた(202条の2)ことを受けて、審議がなされたものです。

公開草案の概要は以下のとおりです(項番号は実務対応報告公開草案第60号のもの)。

1.適用範囲(3 項、25 項)

・会社法第 202 条の 2 に基づく、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引

・いわゆる現物出資構成をとる場合は適用外

2.会計処理の基本的な考え方(34 ~ 37 項)

・事前交付型、事後交付型とも、費用の認識や測定については、「ストック・オプション会計基準」の定めに準じる。

3.事前交付型の会計処理

(1)事前交付型の定義(4 項(6)、(7)、(16))

・取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い(会社法における割当日)、権利確定条件が達成された場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引

・無償取得することが確定することを「没収」という。

(2)新株の発行により行う場合の会計処理

1)割当日における取扱い(39 項)

・発行済株式総数は増加するが、払込資本は増加させない。

2)対象勤務期間における取扱い(5 ~10 項)

・ストック・オプション会計基準と同様に、取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上

・各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とする。

・年度通算で費用が計上される場合は、対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額する。

・四半期会計期間においては、その他資本剰余金の計上又は減額として処理

(ストックオプションでは、費用の反対勘定は「新株予約権」だけですが、今回の取り扱いでは、資本金とその他資本剰余金が登場します(戻し入れの場合は資本金を減らすわけにはいかないので(?)、その他資本剰余金)。)

3)没収における取扱い(11 項)

自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理

自己株式等会計適用指針14項により処理を行うとのことです。この規定は、価値のある自己株式を、贈与などにより無償で取得する場合を想定しているのでしょう。今回の取り扱いの対象取引では、没収日時点で、株式の価値(時価)はゼロなわけですから、それを当てはめるというのはちょっとおかしいように思います(結果は同じになりますが)。なお、当サイトは、自己株式の無償取得は時価で処理すべき(自己株式等会計適用指針14項はおかしい)という見解です。)

(3)自己株式の処分により行う場合の会計処理

1)割当日における取扱い(12 項、43~45 項)

・自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額

(ゼロ円で自己株式を譲渡したのと同じ?)

2)対象勤務期間における取扱い(13 項)

・ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上

3)没収における取扱い(14 項、46 項)

・当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額のうち、没収により取得した部分に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額

(没収について、新株の発行により行う場合とあえて異なる処理にする意味がよくわかりません。)

4.事後交付型の会計処理

(1)事後交付型の定義(4 項(6)、(8))

・取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる(会社法における割当日)取引

(2)新株の発行により行う場合の会計処理

1)対象勤務期間における取扱い(15 項)

・ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行う。

・対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上

2)割当日における取扱い(16 項)

・権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替える

(3)自己株式の処分により行う場合の会計処理

1)対象勤務期間における取扱い(17 項)

・15項と同じ

2)割当日における取扱い(18 項)

・権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額を、自己株式処分差額として、その他資本剰余金を増減させる。

5.その他の会計処理(19 項、50 項)

・実務対応報告案に定めのないその他の会計処理については、ストック・オプション会計基準や同適用指針の定めに準じて会計処理を行う。

(株式引受権が失効した場合は、新株予約権の失効と同様に利益計上なのでしょうか。)

6.開示

(1)注記(20項、21 項、51 項)

・ 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。)
・事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。ただし、権利確定後の未発行株式数を除く。)
・付与日における公正な評価単価の見積方法
・権利確定数の見積方法
・条件変更の状況

(2)1 株当たり情報( 22 項)

・事後交付型におけるすべての権利確定条件を達成した場合に交付されることとなる株式は、「潜在株式」として取扱い、潜在株式調整後 1 株当たり当期純利益の算定において、ストック・オプションと同様に取扱う。

・株式引受権は 1 株当たり純資産の算定上、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除する。

改正法の施行日以後に生じた取引から適用です。
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