ペンギン夫婦の山と旅

住み慣れた大和「氷」山の日常から、時には海外まで飛び出すペンギン夫婦の山と旅の日記です

芥川賞受賞作を読む

2012-02-17 08:57:55 | 読書日記
2月14日の毎日新聞によれば田中慎弥の芥川賞受賞作「共喰い」が20万部を売り上げる大ヒットになっているようです。

田中さんは4度の落選のあと、5作目のこの作品で受賞。記者会見での発言…
「(受賞を)断って(石原氏が)倒れたら都政が混乱する。都知事閣下と都民各位のためにもらってやる」が話題になりました。

会見内容詳細はこちら→産経新聞1月19日号

下関の工業高校卒業後、職に就かず自宅でカレンダーの裏などに下書きしたものを、パソコンを使わずすべて手書きで仕上げたといいます。

今年の受賞作は二編でもう一つは、円城 塔の「道化師の蝶」。こちらも受賞決定からわずか2週間で電子書籍化されるという人気です。
円城さんは東北大理学部卒業後、東大大学院総合文化研究科博士課程修了。受賞者インタビューによると「お金が欲しくて投稿した」「趣味は編み物」という変わった方です。



この二作を同時に読めるのはこの雑誌。新刊書を書棚に並べることはあまりないので、直木賞作品を読みたいときは、これで済ませています。
さて読後の感想ですが…

「共喰い」…「川辺」といわれる狭い地域の範囲で繰り広げられる男女の営み、荒々しい性と暴力の生々しい描写。私のあまり好きでないタイプの小説です。しかし九州弁のおかげか、ユーモアのスパイスもあって救われます。並々ならぬ筆力でぐいぐい最後のクライマックスまで引っ張られていきました。特に溝川の匂いが紙面から漂うような描写で、鎖に繋がれた赤犬、巨大な虎猫、鷺、船虫、蝸牛…そして釣り上げた鰻、これら小道具的な動物たちが印象的でした。

「道化師の蝶」…確かに難解な小説です。「私」が章ごとに入れ替わり、また立ち替わりして、まるで夢の中か迷宮をさまよう感じです。しかし無理に全体の構成や筋道を理解しようとせずに、その章ごとの文章を楽しんでいれば飛び抜けて難しいというほどでもありません。もっと難解な文学作品は無数にありますし、訳の分らないSFもたくさん読みました。選考委員の川上弘美さんが、この作品を「シュレーディンガーの猫」を引き合いに出して推奨していましたが、私は表と裏が判然としない「メビウスの帯」を思い浮かべました。あとで筆者のインタビュー記事を読むと、円城さんは喫茶店でメビウスの輪を作ってみたりするそうです。やっぱりな~。ともかく奇妙な読後感の残る小説でした。



ちなみに表紙のイラストはポタラ宮。この地下に理想の仏教国「シャンバラ」への入口の一つがあるというお話をご存知でしょうか?(2006年撮影)