長尾景虎の戯言

読んだり聞いたりして面白かった物語やお噺等についてや感じたこと等を、その折々の気分で口調を変えて語っています。

有栖川有栖著【カナダ金貨の謎】

2020-10-07 21:20:28 | 本と雑誌


ずいぶん久しぶりに読む、この著者の〈国名シリーズ〉である。
「ロシア紅茶の謎」「スウェーデン館の謎」「ブラジル蝶の謎」「英国庭園の謎」「ペルシャ猫の謎」「マレー鉄道の謎」「スイス時計の謎」「モロッコ水晶の謎」「インド倶楽部の謎」と続き、本書は第10作目となる。
実は、私がこの著者・有栖川有栖氏の作品と出会った最初が、「スウェーデン館の謎」であった。
その後、相当の時間を開けて、著者のデビュー作となる「月光ゲーム」を読むことになる。
「国名シリーズ」を全部が全部、読破出来てはいないが、機会があれば未読の作品にも挑戦してみたいと思っている。
お馴染みの臨床犯罪学者・英都大学社会学部准教授である火村英生(ひむら・ひでお)と推理作家・有栖川有栖のコンビが、警察の犯罪捜査を手伝う。火村教授にとってはこれこそがフィールドワークで、臨床犯罪学者の所以でもあるのだ…。
「国名シリーズ」には長編ものもあるが、短編集となっているのもある。
本書は中編3作が間に短編2作を挟んでいる形式で、エラリークイン流に表せば「アリスのフルハウス」となる。

『船長が死んだ夜』
火村准教授が免停にあい、今回は有栖の運転で、三年前の事件関係者に面会するため、兵庫県丹波市、朝来(あさご)市、養父(やぶ)市を回った。
そしてその後、予約していたロッジに宿泊した翌朝、養父市で殺人事件が発生したことをテレビで知る。
近くなので寄ってみるかといってみたらば、現場で二人とは馴染みの樺田(かばた)警部と出くわす。
こうなると、捜査に加わらざるを得なくなった…。
自宅で果物ナイフで刺殺されたのは、小郡晴雄(おごおり・はるお)、彼は引退したとはいえ、元船乗りだった。
犯罪現場のある笠取(かさとり)町は、およそ殺人事件とはかけ離れた長閑な里山でありながら、被害者の通称は「船長」だったそうだ…。

『エア・キャット』
有栖と作家の先輩・朝井小夜子(あさい・さよこ)とが、飲みにいったバーのマスターのテーブルマジックに付き合った。
マジックは見事なものだった。
バーを出た二人は、喫茶店に寄って、さっきのマスターのマジックについて話しているうちに、有栖が以前に火村准教授が解決した事件について思い出した。
それはさっきのマジックにつながる話であった…。

『カナダ金貨の謎』
表題作である。
この物語はこの著者にしては珍しいパターンで始まる。
倒叙もの(犯人の視点から描かれたミステリ)である。
まぁつまり、最初から犯人が判っている状態で物語が展開する。
「刑事コロンボ」やら「古畑任三郎」のパターン。

民家で発見された男性の絞殺体…持ち去られていたのは、一枚の「金貨」だった。
部屋には、二万八千円超の現金が入った財布がクレジットカードにも手つかずで残されていた。
金貨自体の値打ちは七、八万ほどだそうであったが、何故財布は手つかずであったのか…?
火村准教授が犯人を、見事なお手並みで追い込んでいく!

『あるトリックの蹉跌』
この物語は、そもそもの話、英都大学の学生時代に、有栖と火村の二人が如何に知り合ったか?である。
十四年前の五月の麗らかな日、講義中であるのにも拘らず、有栖は小説の執筆に勤しんでいた時、隣に(他にいくらでも席は空いているのに)座っていた火村が、「この続きはどうなるんだ?」と声を掛けられたことから始まる。
有栖が書きあげた原稿を、知らぬうちに火村が読んでいて、執筆に追いついてきたのだった。
その後、学食へ一緒にカレーを食べにいき、そこで火村によって、まだ執筆中にも拘らず、真犯人を的中されてしまった…。

『トロッコの行方』
物語の冒頭に「トロッコ問題」が登場する。
“トロッコが暴走を始めた。そのいく手の線路上で五人が作業に没頭している。生命の危機が迫りつつあることに気づいておらず、〈あなた〉が危険を報せるために叫んでも、遠すぎてその声を五人は聞けない。〈あなた〉はポイントのそばに立っており、線路を切り替えてトロッコを待避線に誘導することができるのだが、そちらにも一人の作業員がいて、やはり「逃げろ!」の声は届かない。何もしなければ五人がトロッコに撥ねられて命を落とすのは確実で、ポイントを切り替えれば間違いなく一人が死ぬが、犠牲者は五人から一人になる。どの作業員とも面識はなく、いずれも赤の他人であるとして、この状況で〈あなた〉ならどんな行動を取るか?そういう問い掛けである”

さて、浮田真幸(うきた・まさち)という31歳の女性が、何者かに歩道橋の上から階段へ突き落され死亡した。
疑われる人物の事件当時のアリバイは、揃いも揃って不完全だった。
が犯人である確証も持てない。
それぞれに事情聴取しなければ、判断できないので、火村と有栖はそれぞれに会って話を聞くことに。
同行する刑事たちや有栖が首をかしげてしまうくらいに、のらりくらりと火村は意味不明ともとれる質問をしていくのだが、いつしか術中にはまってしまう人物が出る…。
この物語は冒頭の「トロッコ問題」が主題となる…。

5作それぞれにフーダニットあり倒叙ものありで、手を替え品を替えをコンセプトに、なかなか良質に仕上がっている物語でありまして、著者も年齢を重ねて、老獪さが増しているようにも感じました。
もしも、今現在あなたが殺人を犯した人物であったのなら、決して火村という男に対して隙を見せてはいけません!!
英都大学社会学部准教授・火村英生は、殺人者にとっては容赦ない恐ろしい人物でもあるのだ。


ご注意、物語に登場する有栖川有栖と著者である有栖川有栖氏とは、決して同一人物ではありませんよ♪



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。