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■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「入門 現代物理学」(小山慶太著/中央公論新社)

2015-02-03 09:03:12 |    物理

書名:入門 現代物理学~素粒子から宇宙までの不思議に挑む~

著者:小山慶太

発行:中央公論新社(中公新書)

目次 : 1章 重力―遠隔作用の不思議(漱石とニュートン/ 「巨人引力」の正体 ほか)
         2章 真空―虚無の不思議(真空は豊饒で賑やかな世界/ 天動説と二元論的宇宙 ほか)
         3章 電子―無限小の不思議(素粒子のふるさと、ケンブリッジ/ ファラデー最後の実験 ほか)
         4章 物質―極低温の不思議(物質の“変身”/ 相転移と熱 ほか)
         5章 地球―知的生命のいる不思議(『竹取物語』とケプラーの『夢』/ フォントネルの予見 ほか)

 物理学は奥が深い。素粒子の世界を探索していくと、その源となった広大な宇宙へと導かれ、さらに宇宙の始まりであるビッグバンそしてインフレーションにまで行き着く。そしてインフレーションの先には、何が待っているかというと、この先は人類には永遠に分からない未知の領域が広がっているという説や、いや、ミンコフスキー空間から導かれる虚数時空をたどればインフレーション以前の世界も解明できるという説など、諸説紛々あるようだ。このように奥深い現代物理学を理解しようとすると、相対性理論、量子力学・・・などなど、それぞれ専門分野を調べなければならない羽目に陥る。その結果、現代物理学とはいったい何?という全体像を極めたいという欲求が自然と湧き起こってくる。ところが、これまで 現代物理学全般を平易に解説する書籍は、あまり見かけない。その隙間を埋めてくれるのが、この「入門 現代物理学~素粒子から宇宙までの不思議に挑む~」(小山慶太著/中論公論新社)なのである。専門書は数式が多くて馴染まないという人にとっても、この書籍は、数式を最小限に留めているのでありがたい存在だ。全くの初心者には難解かもしれないが、少しでも相対性理論や量子論をかじった人には、現代物理学の全体像を見渡せる最適な書であると言えよう。

 「1章 重力―遠隔作用の不思議」では、夏目漱石の話から始まる。夏目漱石と重力はどんな関係?と誰もが思う。ところが「夏目漱石はニュートンがけっこう好き」なのだそうである。小説「吾輩は猫である」には、確かに「ニュートンの運動律第一に曰くもし他の力を加うるにあらざれば、一度び動き出したる物体は均一の速度を以て直線に動くものとす」「運動の第二法則に曰く運動の変化は、加えられたる力に比例す、しかしてその力の働く直線の方向において起るものとす」とある。なるほどこれらは、ニュートンの慣性の法則と運動方程式のことだ。ところで、子供の頃、ニュートンの万有引力の法則を最初に聞いた時のことを覚えているであろうか。ほとんどの子供が何の疑問を持たずに、何となく認めてしまう。しかし、よく考えて見ると不思議な話だ。何もしないのに物同士が引き合うというということが、ほんとにあるのだろうか。だから、最初に万有引力の話を聞いたときは、「そんな馬鹿なことはない」という答えをした子供の方が私は正解だと思うのだが・・・。この章の最後の方に「電磁波にも重力波にもそれぞれ対応する粒子が存在する。電磁波のそれは光子であり、そして重力波のそれはグラビトンと名づけられている未発見の粒子である」と解説され、「力の遠隔作用はこれらの粒子がその媒介役として機能するものと解釈される」と結論づけられる。重力は身近なものだけに、きちんと説明できる能力が求められるが、そんな時などにこの書は大いに役立つ。

  「2章 真空―虚無の不思議」では、エーテルの話から入る。ガリレオ、ニュートンの時代から20世紀初頭までは、エーテルという仮想媒体が宇宙空間にあまねくひろがっていると考えられていた。20世紀初頭までというから驚きだ。現在、ダークマターとかダークエネルギーとかが話題を賑わしているが、これらとちょうど逆の話である。つまり、あると信じられていたものが、実はなかったのがエーテルの存在で、そんなものがあるわけないと考えられていたものが、実はありそうだ、となったのがダークマターとダークエネルギーなのだ。そしてこの300年以上にわたってその存在が信じられてきたエーテルに対し、完全に存在を否定したのがアインシュタインであった。1905年に発表した特殊相対性理論の論文でアインシュタインは、「光エーテルと絶対静止空間の導入は不要」と断言したのだ。この時アインシュタイン26歳。この革命的論文には引用論文が掲載されていなかったというから、全てアインシュタインの独創から生み出された恐るべき理論だ。この章では、相対性理論を平易に紹介している。つまり、この世の中で絶対的時空(時間と空間)というものはなく、すべて相対的な時空だとする考え。そして、真空の話へと続いていく。何もない空間が真空のことだと長い間信じられて生きたが、実は、それは事実とことなり、今まで何もないと考えられてきた空間は、実は仮想粒子が生まれたり、消滅したりする、とても豊穣とした空間だったことが分かったのだ。だから、“無から有が生じる”ことだって現実には起きる。この章では、今までの常識を根底からひっくり返す、新しい理論が平易に紹介されている。

  「3章 電子―無限小の不思議」では、素粒子発見の第一号となった電子についての歴史が詳細に語られる。この電子の発見にきっかけ掴んだのが実はファラデーであったという。ファラデーは「真理を嗅ぎつける実験家」とも言われ、理論ではなく、実験から偉大な業績を残したことで知られる。このファラデーこそが、素粒子の第一号の電子の発見のきっかけをつかんだのだ。そして、この人生最後の実験に挑戦し、実は失敗してしまう。ところが、それで話は終わらなかった。その34年後に、ライデン大学の若手物理学者ゼーマンがゼーマン効果を発見する。これは、ファラデーが行った実験を最新の機器で追試したものである。つまり、ファラデーの実験は失敗ではなく、当時の実験装置の精度が低く、予期した結果を得られなかっただけなのである。ゼーマン効果を基に、ゼーマンの師のローレンツが電子の存在を予言。そして、1899年、J.J.トムソンは電子を発見する。ここから、現代物理学は素粒子の時代へと入っていくのである。一般には、電子を発見したのは、J.J.トムソンと教わるが、実はその背景には、このようなドラマが隠されていたことが同書によって明らかにされていく。さらに「4章 物質―極低温の不思議」では、超伝導の不思議な世界を、最後の「5章 地球―知的生命のいる不思議」では、系外惑星や地球外文明まで話が及ぶ。同書を読み終えると、人類がこれまで如何にして真理を探究してきたか、そしてその結果、恐るべき事実に立ち至り、またさらに探究を続けるという、人類と自然との格闘史とでも言った方がいい物語が、スリリングに紹介され、飽きることを知らない。(勝 未来)


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