“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■地球の中心で何が起こっているのか (巽 好幸著/幻冬舎新書) 

2012-12-18 10:40:22 |    宇宙・地球

 

書名:地球の中心で何が起こっているのか―地殻変動のダイナミズムと謎―

著者:巽 好幸

発行所:幻冬舎

発行日:2011年7月30日

目次:第1章 地球内部の構造とプレートテクトニクス
    第2章 46億年前に誕生した原始地球
    第3章 火山列島と沈み込み帯の密接な関係
    第4章 火山列島はどうしてできるか?
    第5章 海で生まれる大陸
    第6章 地球は自らリサイクルしている
    第7章 地球における炭素と水の大循環

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、最大40.1mにも上る大津波を引き起こし、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした。さらに、地震の揺れや液状化現象、地盤沈下、ダムの決壊などによって、広大な範囲で被害を発生させ、各種ライフラインが寸断された。 震災による死者・行方不明者は約19,000人、建築物の全壊・半壊は合わせて39万戸以上に達するという。これに加え、東京電力の福島第一原子力の炉心溶融と建屋爆発事故を誘発させた。6基ある原子炉のうち1~4号機は廃炉となったが、使用済み核燃料の除去が必要であるため今のところ廃炉の見通しは立っていないという。このような甚大な災害を引き起こす巨大地震は、何故引き起こされるのか、何故に日本において起こる確率が高いのか、誰もが抱く、そんな素朴な疑問に答えてくれるのが同書である。

 地球の半径は約6400キロあり、内部の構造は、地殻、マントル、核の3層からなっている。さらにマントルは、上部と下部に、核は、外核と内核に分けられる。そして、それらを構成する元素はというと、鉄とケイ素(シリコン)、それに酸素の3つの元素が全体の8割近くを占めている。ほとんどの鉄は酸素と結合することなく金属として核をつくっている。また、ケイ素は酸素と共にマントルや地殻の主要成分を形成している。マントルは、決してドロドロのマグマが詰まっているわけではなく、しっかりとした岩石(固体)なのだ。しかし、一方、マントルは流動して対流している。スカンジナビア半島では年間に1センチ以上以上隆起しているところもあり、100年ほど前は、立派な港であったところは、現在ではすっかり干上がっている所もあるという。

 日本列島は、地殻の沈み込み帯の直ぐ側に存在している。逆に考えると、地殻の沈み込み帯には日本列島のような陸地が生成されることが多い。そして、沈み込み帯は、地球上でも火山が密集する場所の一つとなっている。プレートが沈み込む所で何故マグマが発生するのか?「この疑問に答えるのが本書の最大の目的」と著者の巽 好幸氏は書いている。何故日本にこれほど火山が多いのであろうか。答えは、プレートの沈み込み速度が速い所ほど、活火山の数が多くなる傾向があるという。つまり、地震と火山は、切っても切れない関係があることが、同書を読み進めていくにつれて、次第に明らかにされてくる。プレートが沈み込み、それによって地震が発生し、同時にマグマが溜まり、火山活動も発生する。最近になり、近いうちに富士山が爆発するのではないか、ということが盛んに言われ始めているが、地震活動が活発になれば、これと並行して火山活動が起こるとすれば、富士山の爆発の可能性も納得がいく。

 同書の後半において目に止まるのは、「サブダクションファクトリー」という言葉だ。サブダクションとは、沈み込み、ファクトリーは工場なので、直訳すると「沈み込み工場」ということになる。沈み込み帯のマグマ活動は、最終的には大陸地殻を作り出す。つまり、大陸地殻は、いわば「製品」見たいなものだという。その原料はと言うと、あたかもベルトコンベアーのような働きをするプレートで運び込まれる、海洋地殻や堆積物などの海洋物質なのだ。つまり、地球は、常に沈み込み現象によって海洋物質が内部に運び込まれ、これが長年に渡って蓄積され、火山のとなって地球表面に送り返されるというのだ。こうなると、固くて頑丈な地球内部というイメージは、儚くも崩れ去り、地球内部は、何か液体みたいに流動的なイメージに置き換えなければならなくなる。同書を最後まで読むと、日本にどうして地震が集中するのかが、何となく分り、火山の発生も理解することができる。逆に、そんな国土だからこそ豊かな自然が身近にあるのだな、と自然の大切さに思いが至ることになる。(勝 未来)

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