散文的で抒情的な、わたくしの意見

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TVドラマ「シグナル」の感想文

2018年06月13日 | ドラマ
TVドラマ「シグナル」。

韓国のオリジナル版と日本のリメイク版があります。日本版は2018年が舞台。韓国版は、放送された2016年が舞台です。

極めて興味深いことに「韓国版」と「日本版」は「全く同じ」と言ってもいい作品です。リメイク版は、ただ日本を舞台にして、登場人物を日本名にしただけ、と言っていいぐらい「同じ」です。

普通であれば「日本の現実に合わせて」変えると思えるのですが、それをしていません。見事なぐらい同じです。これはどういう「契約」でそうなったのか、僕には極めて興味深く思われます。

さて、感想を書けるほど「よく見ている」かというと、どっちの作品も一回しか見ていません。だから「思い違い」もあるかも知れませんが、そこはお許しください。

最初、コンセプトがよく分かりませんでした。内容が意外なほど「シリアス」で、さらに「社会派のドラマ」なのです。にもかかわらず「20年前の過去との交信」という「SF的要素」が入ってきます。

どうして20年前との対話が必要なのだろう?最初はどうしても「そこ」が分からなかったのです。

全部見るとわかります。「必然的に必要」というか「どうしても必要」なのです。

何故かというとこの作品。「20年前の韓国社会」と「現在の韓国社会」を比べている作品だからです。

もう少し簡単に書くと、1996年の韓国は「一部の特権階級、具体的には経済的強者(金持ち)や権力者(政治家)は何をしても逮捕されないような社会」であった。

20年後、2016年の韓国も、本質的には大きく変化はしていない。しかし徐々にその社会矛盾に人々は気づき始め、社会が変わりつつある。つまり20年前にはなかった「希望」が生まれつつある。

これが私が考えたこの作品の主題(主旋律)です。

しかし「希望はまだ希望の段階」という認識が脚本家にはあるようです。だから韓国版は「諦めなければ」という言葉を繰り返して、終わります。「諦めなけばどうなるのか」、相当続編が見て見たくなるような終わり方です。

さて、日本版はと思って見てみると、やはり「諦めなければ」で終わっています。でも日本の現実と韓国の現実は違いますから、いささか「唐突に」、「諦めなければ」が出てきて終わります。でも「続編が見たくなる」点は韓国版と同じです。

韓国の現実を土台としたこの作品は、「日本の現実とズレて」しまうのです。1998年の日本と2018年の日本。どっちの時代でも、日本では金持ちも政治家も権力者も「そこそこ捕まり」ますからね。

田中角栄氏が逮捕されたのは1976年です。むろんあの時三木総理という存在がいなければ、逮捕まではされなかったかも知れません。でもとにかく逮捕されたのです。その後もいわゆる大物政治家の逮捕は続きました。結構検察庁は頑張ったのです。金持ちだって捕まりました。たとえばホリ〇〇〇氏です。

韓国だって大統領が何人も逮捕されたじゃないか、は正論です。しかし韓国社会の本当の問題点というか巨悪は、政治家ではなく「金持ち」「財閥」のようなのです。政治家も大統領も所詮は金持ちの「道具に過ぎない」という風に描かれる場合が多いのです。

理由ははっきりしています。韓国が戦勝国だからです。日本の場合は、敗戦によって根底から社会構造が変革されました。具体的には大土地所有がなくなり、財閥が解体され、貧富の差があまり生じないような社会構造が占領軍によって構築されました。韓国は戦勝国であったため、根底からの社会変革が遅れ、朝鮮王朝の負の遺産が残ってしまった。親父さんの方の、昔の朴政権の時、財閥のようなものが形成され、貧富の差が「固定的なもの」になってしまった。今、韓国はその弊害を「ぶち壊す」ためにもがいている状態です。

このドラマはそんな韓国の「もがき」と「未来への希望」を正確に反映している気がします。韓国版の方の「大山刑事」はその社会矛盾を「ぶち壊す」ために、地下にもぐってまで戦い続けます。

しかし日本は違います。1998年より2018年の方がいい社会である、未来に希望がある、とはならないのです。

日本は2018年になって、20年前より「社会正義がはたされる」という「希望」が出てきたのでしょうか。現実は「むしろやや希望が後退した」感じすらします。財務省問題、森友問題、加計問題などを見ると、僕なぞ「暗黒社会になってしまったのではないか」とすら思うのです。

というわけで、韓国の今の「未来への希望」「諦めない決意」を土台にしたこの作品は、今の「日本の現実」とややズレている、というのが私の感想です。脚本を変えずに日本に適用すると、不自然な部分が出てきてしまいます。

ただし「ズレている」としても、この作品はなかなか面白い作品です。面白いから最後まで見たのです。

ちなみに過去時系列での主人公である大山刑事、北村一輝さん。日本版だと「多少繊細」ですが、韓国版では「相当ずぶとい神経の持ち主」です。私がみるところ、そこが一番違っています。北村さんと吉瀬さんの「恋愛関係」も、韓国版の脚本の方が、やや濃密で情熱的です。