英語と書評 de 海馬之玄関

KABU&寛子さんのブログ

United States of America は「合衆国」か「合州国」か

2021年11月19日 07時26分54秒 | 言葉はおもしろいかも

 

>United States of America は「合衆国」か「合州国」か?

最近、アメリカは「合衆国」ではなく「合州国」と呼ぶべきだという主張を目にしました。このブログでもときどき書いていることですが「ある言葉に唯一絶対で必然性を帯びる意味」などはありません。けれども、それにしても、このイシューに関しては、そう、はるか昔、あの本多勝一氏が『アメリカ合州国』(朝日新聞・1981年)を上梓してから、翻訳と外交史・アメリカ研究の専門家を巻き込んで、あ、やはりアメリカは「合衆国」と記すべきだ。と、そういう結論がでていたと思うのですが、その常識に挑戦する保立道久氏の勇気ある発言。これです。

・アメリカは「合衆国」ではなく、やはり「合州国」が正しい
 http://hotatelog.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-e79e.html

本多氏の主張はシンプル。要は、アメリカはしばしばそういわれるような「多様な人種や民族が渾然一体とまじりあう人種の坩堝:melting pot」どころか、「多様な人種や民族が確かにその個性を維持しつつも同じ<アメリカ国民>として共存するサラダボールやオーケストラ:salad bowl or orchestra」でもない、多様な人種と民族が各々孤立しながら存在する、多層な社会階層と格差凄まじい分断した社会であり国である。ならば、そんなアメリカが「大衆が和合」するという意味での「合衆国」などではありえず、単に地域行政機構としての州が共通の利益の維持のために寄り集まった「合州国」にすぎない。土台、

>United States of America

を直訳すれば「アメリカ合州国」としか訳せないでしょうが、というもの。しかし、これは齊藤毅『明治のことば――東から西への架け橋』を持ち出すまでもなく、「合衆国」の訳語は支那語に熟達した清代の通訳官がUnited Statesの直訳として案出したものであって、而して、その語義は「独立した自治権を持った各邦が一致協力して経営する連合国家を形成した経緯」(共和の経緯と様相)を表すもの。

要は、それは「連邦の共和国」の意訳であって、よって、加之、アメリカ建国時に--United States of Americaの建国によって「邦」が「州」にその性格を変える際に--「United States of America」の語義もまた再定義されたとするならば、「合衆」を「人種や民族が渾然一体と溶け合って一つの社会を築いている」とする本多氏の解釈自体が語源を無視した誤りなのです。

 

<参考記事>↓よく整理されていると思います。

・アメリカ合衆国が「合州国」ではない理由についての資料集
 http://www.kotono8.com/2004/06/17united-states.html
 

さて、もちろん、保立道久氏はこのような本多説が失速した経緯をご存じの上であらたに「アメリカは「合衆国」ではなく、やはり「合州国」が正しい」と述べておられるのだと思います。而して、その根拠は、--有名なアメリカ史家の故Shelby Footeが夙にそう力説していた如く-- アメリカでは南北戦争終了までは「United States of America」は複数形と考えられていたけれど、実質的に、アメリカが一つの国民国家になった南北戦争以降それは単数形であらわされるようになった。ならば、少なくとも、建国期に遡る「United States of America」の語義は単数形の「合衆国」ではなく「合州国」と取るのが正しいのではないかというもの。アメリカ社会に広がる格差や差別や分断のことは一応捨象するとして保立さんの立論の根拠はこの点に尽きていると思います。

けれどね、これShelby Foote大先生の勇み足なんですよね。

詳しくはこの記事(↓)を読んでいただきたいのですが、要は、

・The United States Is... Or Are?
 https://www.visualthesaurus.com/cm/wordroutes/the-united-states-is-or-are/

 

 

①事実に反する
南北戦争の前後にかかわらず、「United States of America」はコンテクストによって単数形にも複数形にも使われてきたし、なにより、現在でも複数形の用例はそうまれではないということ

②「複数形→単数形」の、しかし、大きな流れとしての変遷は米語の変化の一斑ということ
イギリス英語では現在でも「多くの要素をその構成要素として含む集合名詞」は複数で表すことが普通なのに対して、アメリカ英語では20世紀初頭を境に、--the House of Representatives, the Senate, and "Congress 等々と同様に--それを単数形で受ける傾向が顕著になった。而して、「United States of America」もその一例にすぎず、アメリカ建国時にこの語彙が「合州国」であったという理由にはならないということ

③アメリカはW半主権国家でありその経緯を表すには「合衆国」が適切
このブログでもしばしば書いていることですけれども、アメリカは「州=半主権国家」が集い形成する「連邦=半主権国家」である--すなわち、「ポリスパワー:州住民の福祉を増進させ、その前提となる社会の安寧秩序を維持する統治権限」を独占する州政府と、他方、外交・安全保障および各州間の共通利害の調整権限を独占する連邦政府が各々統治するところの--W半主権国家ユニオンでありネーションなのですから。アメリカ国民はある州+DCの市民であると同時に間違いなく全員もれなくUnited States of America の国民でもあるのです。ならば、アメリカは〈アメリカ合衆国〉なのです。

 

取り扱い注意❗ 混ぜるな危険? ❤アメリカ合衆国憲法❤の目次的紹介(↖海馬之玄関ブログ内限定)

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/c4ebce035be3e025d326ba8924485f33

【再掲】英文読解 one パラ道場:英語教材として読むトランプ大統領就任演説(英文全文)

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/2b023b24c6f7644fa8473ce785df03ac

憲法訴訟を巡る日米の貧困と豊饒☆「忠誠の誓い」合憲判決-リベラル派の妄想に常識の鉄槌

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/ec85f638d02c32311e83d3bcb3b6e714

 

 

敷衍します。畢竟、アフリカ系アメリカ人の方々はもちろん多様な人種と民族的バックグランドを帯びる移民がつくった国、--空間的にこそ移動しなかったものの「体制の変革=時代の変遷」を経験した、否、蒙ったという意味では、ある意味では、ネーティブアメリカンの人々も含めて--その個々の国民のルーツは移民であるにせよ、しかし、現在の国民やその政府がアメリカ人であり主権国家アメリカであることは動かない。再度記しますが、蓋し、アメリカがサラダボールやオーケストラなのか、あるいは、メルティングポットなのかというアメリカ社会の文化論議とは別に、アメリカ合衆国は、
 

・キリスト教(メリーランドのカトリックを含め)の各会派の人々が

・自分の会派の信仰を奉じ実践できる各会派のコミュニティーを

・自由に形成でき、他の会派のコミュニティーと共存できる<新天地≒共和国>

 

として(確かに、旧大陸にルーツを持ってはいる)移民によってつくられた国である。嘘でも本当でもこの、①キリスト教、②会派ごとの自立的なコミュニティーの自由な形成、③それらの会派コミュニティーの共存が建国の理念なのです。ならば、これらの理念と無関係な単なる多様で多層な<裸の移民>がアメリカをつくった、だから、アメリカは「合州国」と呼ぶべきだなどは、リベラル派によるアメリカ理解の無知か詐術に等しい。

移民の国アメリカが移民を排斥することは矛盾だという論理の論理の破綻について

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/e6c9a76d9b62dc8b6095bddf57340032

まして、アメリカは英国(スコットランドを含む)とアイルランド、そして、ドイツ系、および、北欧系の移民が創ったプロテスタント--および、プロテスタントと共存できるタイプのカトリック--の入植者がその基盤を形成したかなり文化的にも特徴のある政治社会。そういう「民主国」などではない「共和国」。

而して、19世紀末からのイタリア系と東欧系、20世紀のアジア系とヒスパニック系の新移民と新々移民もまた、そのアメリカの基盤的エートスと社会秩序を受諾する限り<アメリカ人>であることを--南部の敬虔なバプティスト等々のキリスト教徒であるアフリカ系の市民を含む--アメリカ国民から認められてきたすなわち、アメリカは、格差が広がる分断線が社会のあちこちに走る多様で多層な移民の国ではあるがそのことはアメリカが「合衆国」であることとは豪も矛盾しない。と、そう私は考えます。


・宗教と憲法--アメリカ大統領選の背景とアメリカ建国の風景↖序は少しマニアック、破からどうぞ🐙
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/3a1242727550e8e31a9133aa154f11bf

・アメリカ大統領選挙に見る「United State」あるいは「保守主義の牙城」

 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11136206113.html

そして、

・書評予告・阿川尚之「憲法改正とは何かーアメリカ改憲史から考える」

 https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/7eddb6f57b93ed69fbecdd5f75d06f2a

 

おまけ

 

イギリス英語の入門書紹介――役に立つのにお洒落で楽しい「イギリス英語」の招待状のようなもの

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/2387050ede4ca0a2947e1c5783157128

SKE48の「レッツ STAY HOME」 / 松本慈子 英会話に挑戦↖これいい、鴨

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/ba0bf9528f1950a83d9d0f84e7b77ed9

 


コメント   この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 資料:”今まで差別とは無縁だ... | トップ | AKB48本店のエース”「小栗有... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

言葉はおもしろいかも」カテゴリの最新記事