風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

ホワイトデーの思い出

2005-03-14 | 風屋日記
半年程つきあった後は冷たくあしらっていた。
美人で頭もよく(某有名難関女子大出身)、
家もその地方の経済界では重鎮の会社を経営しているという女性だった。
もともとそんなに熱い思いもなく、何の気なしにつきあい始めたものの、
悲愴感が漂う程精一杯尽くしてくれる2才歳上の彼女の思いが
ちゃらんぽらんな学生の身にはかなり重く、
また他の女の子と立ち話をしているだけなのに、
そばまで来てその娘を睨みつける程の激情が少々イヤミに感じつつあった。

半年つきあい、その後数カ月程冷たくあしらったものの、
就職活動にあたり、私自身が弱気になっていたのかも知れない。
2月に入ってから、またちょくちょく呼び出して食事をしたりしていた。
バレンタインデー。
そんな日だということも忘れていて、その日も2人でお茶していた。
彼女が恐る恐るリボンがついたパッケージを取り出した。
「はい、これ。あのね、また彼女に戻ったって思ってもいい?」
その姿をいじらしく思いつつも、なぜか私は素直になれなかった。
私のとった行動は、無言でその包みを押し返しただけだった。
彼女は包みを掴み、出口そばのゴミ箱に投げ込むと
そのまま店を飛び出し、走っていってしまった。
私は出口まで追い掛けたものの、
もう彼女の姿が見えない下北沢の通りを眺めることしかできなかった。

翌日から私は罪滅ぼしのように
彼女を誘っては食事をしたり、飲みに行ったりした。
ただ謝罪の言葉だけはなぜか言うことができず、知らん顔しているだけだった。
それまで通り、たまに彼女は部屋に泊まりに来たりもしたが、
それまでとは違い、どこか芯が抜けたような感じだった。

程なくホワイトデーがやってきた。
実はプレゼントは、謝罪の言葉とともに用意していた。
私が持っているものと同じデザインのトレーナーだった。
もう一度・・・と考えた。
もう一度やり直してみようか。
会う約束をしようと電話の前に座った。
彼女が自分の部屋の電話の前で、息を潜めているような気がした。
1時間経ち、3時間経ち、どうしても受話器を持てずに酒を飲んだ。
顔を強ばらせて電話の前に座る彼女の姿が思い浮かんだ。
6時間・・・10時間過ぎ、夜も更けて私はすっかり潰れていた。

程なく彼女は田舎に帰った。
ホワイトデーの後、引越しを知らせる電話を貰っただけで、
私は結局彼女に会うことはなかった。

大学4年の冬から春にかけた、私の苦い思い出。
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2 コメント

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どきどき(*・_・*)ドキッ (お色気)
2005-03-15 05:25:09
読んで行くにつれ

この二人はどうなるんだろうと引き込まれました。風屋さんって母性本能くすぐるタイプだもんね(笑)年上の彼女の気持よく解ります。いくら好きでも歯車が合わないと結ばれませんね・・・。

返信する
>お色気さん (風屋)
2005-03-15 12:19:33
40代半ばになるオヤジに「母性本能」って言われても・・・。

精神年齢が低いってことすかね!?(笑)



この話は、もう20年以上前のことですが、

今でも思い出すと心がチクリとします。

好き嫌い以前に、当時の私は人間としてどうなの?

って感じです。

この前後の2年ばかりには、

私のこれまでの人生の中で最もキライな自分がいます。
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