店の前でひと呼吸おき、私はゆっくり扉を開ける。
開ける前から微かに聞こえていたビル・エバンスが
途端に大音響で襲い掛かってくる。
向い風に逆らって歩くように、私は店内へと足を踏み出す。
「今日もコーヒーでいいのか?」
私の耳に口を近付けて叫んでみるものの、
うなずく私を確認する前に豆を摺りはじめるマスター。
いつも通り、リズムに乗りながら摺った豆をセットする。
運ばれてきたコーヒーは白いカップになみなみと注がれていて、
カップそのものも唇がやけどするほど熱い。
しばらくはそのまま置いておくだけになる。
ビル・エバンスの演奏が終わり、店内は急に静かになる。
「今日は何を聴く? よかったらキース・ジャレット聴かないか?」
ビル・エバンスのレコードを仕舞いながらマスターが尋ねてくる。
今日のように客が私だけの時には、
マスターは色々聴かせてくれ、Jazzに関することを教えてくれる。
「こないだ買ったキース・ジャレットいいぞ。ピアノがまるで別の楽器だ」
その言葉を無視し、私はここ数日知りたかったことを尋ねた。
「NHK-FMの『クロスオーバー11』のラストテーマ知ってる?
あれは誰のなんという曲なんだろう」
マスターは残念そうにキース・ジャレットの新しいジャケットを撫でながら
「ありゃーコーネル・デュプリーだ。STUFFの元ギタリスト。
エリック・ゲイルとコンビだったヤツだな」
マスターはキース・ジャレットのジャケットを仕舞い、
赤いジャケットのレコードジャケットを取り出す。
「映画の『サタデーナイトフィーバー』知らない?
あん中で使われてる『藍はきらめきの中に』って曲だが」
そう言いながら、レコードにそっと針を落とす。
メロウなバラードが流れてくる。
「あーこれこれ、映画の曲だったんだ」
「原曲よりもメロウなアレンジになってるけどな」
静かな曲が流れる中、店内は湯気とタバコの煙。
扉の窓から弱い日射しが射し込んでいた。
高校2年の秋のこと。
私のセピア色の記憶。
開ける前から微かに聞こえていたビル・エバンスが
途端に大音響で襲い掛かってくる。
向い風に逆らって歩くように、私は店内へと足を踏み出す。
「今日もコーヒーでいいのか?」
私の耳に口を近付けて叫んでみるものの、
うなずく私を確認する前に豆を摺りはじめるマスター。
いつも通り、リズムに乗りながら摺った豆をセットする。
運ばれてきたコーヒーは白いカップになみなみと注がれていて、
カップそのものも唇がやけどするほど熱い。
しばらくはそのまま置いておくだけになる。
ビル・エバンスの演奏が終わり、店内は急に静かになる。
「今日は何を聴く? よかったらキース・ジャレット聴かないか?」
ビル・エバンスのレコードを仕舞いながらマスターが尋ねてくる。
今日のように客が私だけの時には、
マスターは色々聴かせてくれ、Jazzに関することを教えてくれる。
「こないだ買ったキース・ジャレットいいぞ。ピアノがまるで別の楽器だ」
その言葉を無視し、私はここ数日知りたかったことを尋ねた。
「NHK-FMの『クロスオーバー11』のラストテーマ知ってる?
あれは誰のなんという曲なんだろう」
マスターは残念そうにキース・ジャレットの新しいジャケットを撫でながら
「ありゃーコーネル・デュプリーだ。STUFFの元ギタリスト。
エリック・ゲイルとコンビだったヤツだな」
マスターはキース・ジャレットのジャケットを仕舞い、
赤いジャケットのレコードジャケットを取り出す。
「映画の『サタデーナイトフィーバー』知らない?
あん中で使われてる『藍はきらめきの中に』って曲だが」
そう言いながら、レコードにそっと針を落とす。
メロウなバラードが流れてくる。
「あーこれこれ、映画の曲だったんだ」
「原曲よりもメロウなアレンジになってるけどな」
静かな曲が流れる中、店内は湯気とタバコの煙。
扉の窓から弱い日射しが射し込んでいた。
高校2年の秋のこと。
私のセピア色の記憶。