はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

タイムスリップ

2010-04-22 15:33:42 | はがき随筆
 春風が鹿児島市から、40数年前の教え子たちを連れてきた。
 昨年、彼女たちの同窓会に欠席した私や、半身不随の妻を案じて訪問してくれたのである。迎える老夫婦に4人が喜ぶ。
 セピア色の写真や文集を見せると、中学時代にタイムスリップ。「みんな細くて可愛い~」とか「お互いに大きな夢があったよね」と言い合う姿がほほ笑ましい。淑女が「昔は髪がふさふさのイケメンだ」と私を冷やかすので、頭を両手で隠すと、笑いが部屋をつつむ。
 客は「夏には他の人が来ます」とうれしい言葉を残し、陽光を背に帰って行った。
  出水市 清田文雄(70) 2010/4/20 毎日新聞鹿児島版掲載

○○めまい症

2010-04-22 15:31:31 | はがき随筆
 ベッドで夜中、右へ寝返りを打った途端、意識がスーッと遠のいて行くような、頭がフワフワするような、吸い込まれていくような、何とも嫌な気分に襲われた。頭を左へ倒すと、やはり同じ症状が…。発作は数秒で回復したが、不安な気持ちで翌日耳鼻科へ。検査の結果「良性突発性頭位めまい症」と告げられた。「良性」という言葉に少しホッとした。そして折よくその晩、NHKテレビの「ためしてガッテン」でこの病気がテーマに。原因はどうも日ごろ寝たままで長時間テレビを見ていたことにあるらしい。生活習慣病かもと反省しきりの私です。
  霧島市 久野茂樹(60) 2010/4/19 毎日新聞鹿児島版掲載

ナニワイバラ

2010-04-18 15:35:39 | はがき随筆
 庭に出ると垣根にあふれんばかりに白いバラが咲いている。花を見ているうち遠い日を思い出す。高校のテニスコートの奥のフェンスに白いバラが咲き誇っていた。卒業の日、小さな芽をつけた枝をそっとチリ紙に包んで持ち帰り、鉢に刺した。運良く根付いて三年後には我が家の垣根を見事に花で囲んだ。
 ある年帰省すると改築で垣根が無くなっていた。当時何というバラか名を知らなかった。六年前ナニワイバラと知り、やっと苗を入手、昨年咲き始めた。真白の五弁に黄のしべ、見入るうちにコートを走る乙女、球のはじける音が聞こえるようだ。
  出水市 年神貞子(74) 2010/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はバセさん


走り雨

2010-04-18 15:28:09 | はがき随筆
 急な雨でゴミ袋を持ったまま公民館の軒下に入った。雨粒を眺めながら「いつ雨やどりしたかなあ?」と考えた。
 小学生のころは困っていると必ず母さんが傘を持って来てくれた。母さんと歩く傘の下が妙に明るかったなあ。あのころは母さんもまだ元気だった。大学時代、雨の中を平気で歩いていたら見知らぬ女性が傘に入れてくれた。聞くと友だちのF君の姉さんの友人だった。甘い香りを今でも覚えている。あれ、どこだっけ? なかなか思い出せんなあー。
 気がつくと雨は止んで水たまりには、青空が映っていた。
  出水市 中島征士(65) 2010/4/17 毎日新聞鹿児島版掲載

テレビに息子が

2010-04-16 15:38:49 | はがき随筆
 親離れをとっくに完了しているらしく、めったにメールもよこさない息子が社会人として歩き始めて1年。どんな仕事ぶりか気にかかっていた。
 夕方のニュースを見ていた時のこと。春の交通安全週間が始まり、新小学1年生に交通安全指導をしている映像が流れた。黄色い帽子が横断歩道を渡っている。なんとその横には息子がいた。一瞬のことで、夫を呼ぶ間もなかった。制服姿も様になり、ちゃんと働いていた!
 その映像を妹夫婦も見たという。ニュースは見ていたが見逃したという母と見損なった夫は残念がることしきりだった。
  出水市 清水昌子(57) 2010/4/16 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆3月度入選

2010-04-16 15:33:11 | 受賞作品
 はがき随筆3月度の入選作品が決まりました。
▽薩摩川内市高江町、横山由美子さん(49)の「消えた焼酎」(21日)

▽霧島市国分中央、□町円子さん(70)の「来客様様」(23日)

▽鹿児島市上荒田町、高橋誠さん(59)の「ハイボール」(9日)

-の3点です。

 3月掲載分には「はがき随筆」に関して、投稿者でしょうと街で声を掛けられたとか、投稿が生活の励みになるとか、毎日ペンクラブが活況を呈しているとかの内容のものがありました。この欄が、みなさんの生活の一部になっていることを実感しました。文章を書くこと
は、日常生活に異なる意味を与えます。これからも頑張ってください。
 今月の入選作です。横山さんの「消えた焼酎」は、大事にしていた銘柄焼酎を、御主人が教え子の同窓会に持って行ってしまったという事件(?)です。御主人の染みついた教師気質に感心するとともに、「損した」という実感もあったというもので、焼酎を巡るご夫婦
の心理の差異がよく描かれています。
 □町さんの「来客様様」は、来客がないと、なかなか家の片づけや掃除をしない。最近泊まりがけの客があって、お陰さまで、台所もピッカピカという内容です。自分の「怠惰」を客観視したために、巧まぬユーモアの出た好文章です。
 高橋さんの「ハイボール」は、最近流行っているハイボールに、青春時代からの飲酒歴を回想した内容です。コークハイにまつわるビートルズなどのミュージックの記憶、まさしく昭和は遠くなりにけりですね。
 他に3編を紹介します。
 浜地恵美子さんの「里いも」(5日)は、義母に貰った里芋の始末に困っていると、嫁いだ娘さんに冷凍保存の方法を教わった。そのことに、娘の成長を実感したという内容です。「負うた子に教えられ」ですね。久野茂樹さんの「夢のタマゴ」(4日)は、毎日新聞に掲載されたいろいろの文章を、挿絵入りで自費出版することが目下の夢であるという内容です。どうか「アグレッシブ」に夢すの卵を孵してください。
道田道範さんの「三人三様の同情」(7日)は、独り身で料理に悪戦苦闘、料理本を買いにいっても、料理を作っても同情され、嫌になってしまうという愚痴が、愚痴に聞こえないところに文章の巧みさを感じます。
 (鹿児島学名誉教授・石田忠彦)
 係から 入選作品のうち1編は24日午前8時半過ぎからMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。



記された旅程

2010-04-16 15:08:23 | 女の気持ち/男の気持ち
 あと2ヵ月で金婚式と楽しみにしていた3月18日、夫は夜中に救急車で運ばれ手当てのかいなく旅立ってしまいました。急性大動脈解離。言葉を交わす間もありませんでした。大好きな孫娘の大学卒業式の朝。4月からの職も決まって大喜びしていたのに。あまりに急で人ごとのような気持ちで3週聞が過ぎました。
 同い年のせいか気持ちも「あ、うん」でぴたり。退職後20年近くいつも一緒に行動していたので、心にポッカリ大きな穴が開いた感じです。
 平成6年には右聴覚神経腫瘍で長時間の手術をしました。その7年後にも別の手術を受け、今回も同意書を書いたのに……。私に世話をかけないよう最後に大きなプレゼントを贈ってくれたのよと姪たちが言います。優しい心遣いだったのよ、と。
 これもあの人らしいかな。悔しいけれど、私が強く生きねば、彼が心配するでしょう。身に染みた周りの人たちの優しさへの恩返しの気持ちを忘れずに。
 鉄道マニアだった夫は結婚以来50年、時間があれば時刻表を広げて遊んでいました。持ち物を整理していると、関東、関西、四国方面の2泊3日コースを書きつけたノートが出てきました。また私をびっくりさせて連れて行くつもりだったのでしょうか。
 大好きな時刻表も一緒に持たせたので、きっといろんなプランを考えていることでしょう。
  北九州市小倉南区 堀切テル子・79歳2010/4/16

難聴の世界で

2010-04-16 14:41:38 | はがき随筆
 「そんなに大きな声を出さないで」と妻の声。そんなつもりじゃないが、目を見て2度目は確認の意味で大きな声になるらしい。補聴器を付けてもかすかに聞こえる程度。勢いテレビ、ラジオは敬遠気味。音のない世界にいるみたい。孫の甲高い声は何とか聞こえるが、低い声、後ろからの声は聞こえない。相手は聞こえたものと思っているが、後で妻に通訳してもらう。
 聞き違えなど多々あるが何とかしのいでいる。ふれあいサロンも身ぶり手ぶりで会話。プラス思考で積極的に会話の輪に入っていくように心がけ。それが世間を広くし生きる道だ。
  薩摩川内市 新開譲(84) 2010/4/15 毎日新聞鹿児島版掲載

二分の一個

2010-04-16 14:37:05 | 女の気持ち/男の気持ち
 入退院を繰り返していた夫が今回、入院して1年になる。最初のころは会話も弾んでいたが、今はほとんど何もしゃべらない。こちらが何か問えば短く答えるが、あとは眠ってばかり。
 ほとんど毎日のように夫のもとへ行っているが、身の回りの世話をした後、私も夫のそばに座っているだけ。こんな状態が続くと、病人もきついだろうと思う半面、こちらもだんだん疲れを感じてイライラが募ってくる。そして言ってはならぬ言葉を強い口調でつい吐いてしまった。
 「お父さん、私も毎日毎日来るのきつい。そんなに何もしゃべらないなら、来ても来んでも同じ。もう来なくてもいいやろ」
 途端に夫の目がうっすらと潤んで、寂しそうな顔をした。それでも何もしゃべらない。ただ、心の奥では必死に叫んでいることが手に取るように分かった。
 ただ私が来るのだけを待っているだけの夫。なのに何とひどいことを言ったのだろう。夫は悲しくて眠れなかったかもしれない。そう思って私も寝つかれない夜を過ごした。
 夫は大の甘党で、甘い物に目がなかった。糖尿病のため禁じられている大好物の回転焼きを、少しだから許してほしいと先生や看護師さんに内緒で翌日持って行った。1個では多いだろうと半分だけ、昨日のお詫びのつもりで。
 わずか二分の1個の回転焼きに込めた思いは伝わったろうか。
  福岡県福津市 荒木 重子・73歳 2010/4/13 毎日新聞の気持ち欄掲載
写真はm.Yさん

招き猫さん

2010-04-16 14:22:35 | はがき随筆
 遠い昔50数年前、高校修学旅行京都での出来事。
 休憩時間になり、グループで喫茶店に行った。2階に上がり皆で金を出し合い羊かんを買う役目になり階下におりた。
 買い終わり、階段を上がる時に足がすべり転んだ。羊かんは四方へ散乱した。
 急いで拾い集めたが一個足りない。どこへ? さがす事に。
 すると招き猫の頭にのっている。「あそこだ」と大声を出して取った。一個ずつ包装してあったので、全員喜んで食べ楽しいお茶会になった。招き猫さん受け取ってくれてありがとう。大事に至らなくて安心でした。
  肝付町 鳥取部京子(70) 2010/4/14 毎日新聞鹿児島版掲載


「ツバメが笑う」

2010-04-16 14:20:14 | 岩国エッセイサロンより
2010年4月14日 (水)

    岩国市  会 員   吉岡 賢一

来た来た今年もやってきた。春到来を告げるツバメの第一陣がやってきた。まだ、ほんの数羽しか姿を見せない。先発隊として、安全や食糧調達などチェックしているのか、電線にとまる姿に落ち着きがない。 

 その上、随分とスリムな体形だ。はるか離れた越冬地からやせる思いまでして、陽気のいい日本で子育てをしようとやってきたのだろう。

 温かく迎え、もてなしてやりたい。しかし、軒先を貸す貸さないで毎年もめる。結局、今年もお断り。ツバメが同情を買うような瞳をこちらに向けて、苦笑い。
   (2010.04.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載
写真はjun-218さん

ダム吟行句会

2010-04-16 14:13:00 | はがき随筆
 素晴らしい春の吟行日和となった。3月30日、高川ダム吟行会に参加した。出席者は9名、場所は高川ダム周辺。湖畔に植えられた桜があでやかな姿で迎えてくれた。Aさんと2人湖の桜並木を歩く。さわやかな風に散る花びらを追いながら、桜吹雪にうっとり。40数年前、三つの村がダムに沈んだ。往時をしのぶ。そのころ高川に住んでいた今は亡き伯父さん。移転の話があった時「出水市民のために土地を譲ることに決めた」と笑顔で話された優しかった伯父さん。碑に名前を見つけ涙がにじんだ。
〈桜散る湖底に眠る村の墓〉
  出水市 橋ロ礼子(76) 2010/4/13 毎日新聞鹿児島版掲載

もう限界かも

2010-04-12 21:57:57 | はがき随筆
 昨年の夏、超ベテランのSさんが辞めた。パートとはいえ、正規職員以上に働き、我々が異動して来るたび、仕事の手ほどきをしたほどの人である。後任の新人が慣れるまで、彼女の仕事を分担し、他のスタッフも仕事量が増えた。私の責任も重くなり、9時前後の退庁が11時を過ぎることもあり、それでも仕事を残して帰る始末。遅い夕食は昼の出前弁当のご飯を半分持ち帰り、台所で立ったままお茶漬けでかっ込む毎日。
 体重減少と睡眠不足の生活が8ヵ月余り。「体力の限界!」と引退会見をした横綱の姿が自分と重なる。
  鹿児島市 本山るみ子(57) 2010/4/11 毎日新聞鹿児島版掲載

孫の進学

2010-04-12 21:00:29 | はがき随筆
 平成21年度に全国大会に出場して活躍した各分野のスポーツ選手の卒業後の進路が地元紙で紹介されていた。H校のテニス部でインターハイ等に出場した孫の名もその中に掲載されていた。孫の進路は京都にある私の出た宗門校のR大で、テニスでは無名の大学である。保護者の方々は少なからず驚かれたとのことである。
 彼の考えは、大学ではテニスだけでなく、その大学でないとできない勉強もしたいと、自ら選択したという。長年テニスを続けて来た彼の哲学なのか。
 4月1日、後輩の入学式に爺も参列することにした。
  志布志市 一木法明(74)  2010/4/10 毎日新聞鹿児島版掲載

手を握りしめて

2010-04-09 22:42:52 | はがき随筆
 「お父さんは、どこ?」
 「お父さんは、ここでしょう」
 「違うよ、僕のお父さん」
 「もう、亡くなってるよ」
 「…そうか、寂しいなあ、お母さんもか。お母さんが、ここにいてくれたら元気がでるんだけどなあ」
 半身マヒの夫は、そう言って朝からため息をつきました。夫は13歳の一人娘のお父さんですが、時々、子供にもかえります。それは、気持ちがとっても落ち込んで不安感が強い時です。娘と私でも、埋められない気持ちです。夫の手をしっかりと握りしめているしかありません。
  鹿児島市 萩原裕子(57) 2010/4/9 毎日新聞鹿児島版掲載