はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

エール

2010-01-16 16:59:37 | はがき随筆
 昨年11月末「あこがれの人」と私のことをエッセーにしてくださった23歳の森さん、本当にありがとう。ただただ書くことが好きで今でも赤毛のアンの世界が大好きなおばさんです。子育ても夫の介護もしています。
 「お母ちゃん、書いて出してる? お母ちゃんは書いていたら気分が楽になって、今の苦労が忘れられるから書いてね」と介護している夫が逆に気遣ってくれるから幸せです。「何で書いて出すの」と言う人もいますが気にしないでずっと書いています。そのことが誰かの役に立っていると思うと元気が出ました。感謝でいっぱいです。
  鹿児島市 萩原裕子(57) 2010/1/16 毎日新聞鹿児島版掲載

箱根駅伝を見る

2010-01-15 18:04:24 | はがき随筆
 三浦しをん原作「風が強く吹いている」が昨年、映画化された。三流大学の実績もない駅伝部が、無謀にも箱根駅伝を目指すストーリーである。俳優たちはランニングの特訓を受け、延べ3万人というエキストラを動員し、実写さながらの映像となった。1月2日と3日は、早朝から中継を見た。往路の5区、東洋大の柏原君の力走に思わず拍手。各区間にそれぞれの思いを抱えて、学生たちはタスキをつなぐ。9区から最終走者へ、時間制限のためタスキを渡せなかった亜細亜大。中継後に放送された幾つかの逸話は映画と重なり、胸がつまった。
  鹿児島市 本山るみ子(57) 2010/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

強く生きよう

2010-01-15 17:18:12 | はがき随筆
 年末に多くの人から供花供物や便りが届いた。美しい器の果物ゼリー、繊細な切り絵と香。書道作品の写真は過去を想起、胸を打つ。今は満身創痍の状態で、外食と、知人の好意に頼る買い物と差し入れで生活している。不安・絶望・努力・あきらめ・希望──の葛藤の繰り返しだが、これ以上迷惑をかけられない。感謝して辞退させてもらった。
 三回忌を機に決心。「明日の心配をせず、今日の日を強く生きよう」。新しい年は笑顔と声を出すことを目標とする。
 夫の好きなメジロが鳴き、ロウバイが香る冬空に誓う。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はScratさん

神様は不在

2010-01-15 17:00:43 | はがき随筆
 私が中2の冬。竹を満載した荷車を引き、難所の田原坂。急こう配にこん身で踏ん張るも、車輪は回らない。吹きすさぶ風に雪が追い討つ。泣きじゃくる弟をげんこつで叱咤する。
 最後の難関、萩の段坂に差し掛かると、ふぶく雪が目をふさぐ。家業を手伝う我が身を、天が邪魔して、神様は不在か。
 我が家に到着するや「時化日和に荷車を引き、親の顔に泥を塗る気か」と父の怒声が飛ぶ。
ねぎらいの言葉一つなかった。″怒髪天″の私は後ろから父の頭をぽかりとたたき、戸外に飛び出した。その夜の晩飯を抜かれた。やはり神様は不在だ。
  出水市 道田道範(60) 2010/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

雪! ユキが降りました!

2010-01-14 20:30:54 | アカショウビンのつぶやき
 高隈山が雲に覆われている。
 あれは桜島の灰、それとも雪雲かな。
 もしかしたら明日の朝は真っ白かも、なんて少しうきうきしながら、アンカで暖めた布団にもぐり込んだ。

 朝起きると、カーテンの外がやけに明るい。庭一面うすく雪が積もり真っ白。雪国の人には申し訳ないが、たまにしか降らない雪に思わず
「うわーっ、雪だ!」と歓声をあげてしまった。

 やっぱり外は寒そうなのでストーブで部屋を暖めてから、のろのろとカメラを持って外に出たのですが…。残念、雪はまだらに残っているだけでした(>_<)

成人式

2010-01-12 16:30:23 | かごんま便り
 鹿児島市の「新成人のつどい」を拝見した。

 会場の市民文化ホール周辺は着飾った若者でごった返していた。タクシーの運転手氏いわく「今年は例年より着物姿が多い気がする」。厳しい不況下でも、この日だけはという親心の現れか。

 市内の新成人6488人のうち集まったのは約5000人。式典が始まっても大半は建物外で談笑している。第1、第2ホールの収容力は計約3000席で物理的に入りきらないのだが、見ると結構空席がある。入れないのではなく入らないのだ。加えてホール内も後方の席は屋外同様「同窓会」状態。壇上のあいさつが聞こえなくはないが終始、私語がやまない。

 簡潔な式典とアトラクションという構成は全国的な定番だ。式典だけだと集まりが悪いというのがその理由。鹿児島市の場合、式典30分、前後のアトラクションは80分。ただ出演した歌手2入が共に新成人と聞くと、救われた気がする。

 参加者諸君の名誉のために付言すると、私自身の取材経験や報道で見聞する各地の式の様子からみて、鹿児島市の新成人は郷中教育の薫陶を受けたDNAの恩恵か、お行儀のいい部類と思う。

 成人式は、埼玉県蕨市で46年11月に開かれた「青年祭」が起源。「成人の日」は49年に始まり、自治体主催の式典が全国に拡大した。モラル低下が顕著になったのは90年代。新成人を企画に参加させるなどの工夫が登場したのもそのころだが、那覇市のようにトラブルに懲りて全市的な式典を取りやめた例もある。

 「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます」(祝日法)のがこの日の趣旨。同窓会色や我が子の晴れ姿を見たい親心を否定はしないが、同窓会は別途開けば良いし、晴れ着は正月など別の場で着ることも可能だ。現行方式の成人式は、そろそろ曲がり角に来ている感じがする。

鹿児島支局長 平山千里 2010/1/12 毎日新聞掲載

得度式

2010-01-12 14:04:56 | はがき随筆
 私はわくわくしながら禅寺の得度式に立ち会った。おもしろいことに参列者に、神父やシスターもいる。きょろきょろ見回していると、主役の娘さんがあいさつに現れた。あっと私は驚いた。頭頂部に少し黒髪を残し既にテカテカ光っている。
 儀式は長崎の和尚さんが指揮した。白装束姿の娘さんの一連の身の運びが軽やかで、まるで舞っているチョウのように見える。やがて残りの髪がそり落とされ、黒の法衣が授けられると、厳かな中に式は終わった。
 祝いの席で、剃髪前にパーマをかけたと笑う禅尼の顔に、私は女心を垣間見た気がした。
  伊佐市 山室悟入(63) 2010/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載



退場方針?

2010-01-12 13:18:18 | 女の気持ち/男の気持ち
 入浴中に気づいて驚いた。左大腿から臀部にかけて、豹柄よろしく赤い斑点が無数に広がっている。大きいものでは径1㌢を超えるものも。
 こりゃ一体なんじゃ? 変な虫に刺されてかきむしった記憶などない。
 「あ、タイジョーホーシンですね」
 皮膚科医は触診するまでもなく、一瞥して即断。
 退場……方針……?
 説明では、今までの疲れの蓄積が表に出たとのこと。加齢とも関係ありとか。
趣味のウオーーキングは当分控えるように、また感染のおそれがあるので乳幼児との接触は特に避けることと言い渡された。
 ちょうど長女が2歳半の孫娘を伴って帰省中で、しかも第2子が誕生して退院してきたばかり。孫の遊び相手になれないなんて、生きていてはいいけれど、ご飯を食べてはダメと釘を刺されたに等しい。
 思えばこの十数年来、病院や薬とは縁遠かったのが、齢七十を過ぎた途端にこの有り様だ。それぞれ己の古希を迎え得ずに逝った2人の兄からの忠告かな、と思った。
 そういえば2、3ヵ月前から右肩に痛みに似た違和感が少々ある。この際ついでにこの方の診療も考えた方がいいのかな。
 「退場するのはまだチト早い。方針決めて整形外科に行くべし」
 兄2人からのからかい半分のエールが聞こえた気がした。
  長崎県佐世保市 大石 敏夫・70歳 2010/1/12 毎日新聞の気持ち欄掲載

巌流島

2010-01-12 13:11:34 | 女の気持ち/男の気持ち
 正月休みが終わり、再び単身赴任先ヘー人戻る主人を送りに出た。新幹線に乗った夫に手を振りながら、こだまがトンネルを入りきるまで見送ると、かすかな解放感の中で少しの寂しさと心配が入り交じる。
 その晩、息子が思い出したように言った。
 「お母ンたち、今回は巌流島せんかったね」
 言われてみれば、お父ンと私、ずっと仲良しだった。
 帰省するまでは「早く帰ってきてね」と優しく言えるが、「お帰り」から早ければ即日、持って3日後には武蔵と小次郎になっている。原因は、出迎え時間に遅れて待たせたとか、高血圧なのに風呂の湯が熱すぎたとか、私の気配り不足とお父ンの常識的責めからが多い。「またかア」と思う私の面つきもヒートアップの種となり、気配を察した息子たちは「犬も食わネエ」とサッと身をかわし、仕事に自室に消えるのが常。なのに今度はどうしたのだろう。ムカつく瞬間はあったが、怒鳴り合うには至らなかった。息子が不思議がるのも当たり前だ。
 かれこれ10年の別居生活。息子や孫に心配の種はあっても、もうそれだけ。年を一つ越えるたびに、自分たちの心配の方が勝ってくる。三十余年、人生を共有してきた同志として、そろそろ落ち着ける兆しだろうか。それとも、やっと大人になれたということなのだろうか。お父ンの目尻のしわが、妙に優しく、イイ男に近ごろ見えてきた。
  山□県岩国市 山下 治子・61歳 2010/1/11 毎日新聞の気持ち欄掲載

渚への郷愁

2010-01-12 12:50:26 | はがき随筆
 夜明けが遅くなる冬は、早起きの身にとってつらい季節である。3時半から4時に起きると夜明けまでかなり時開があり、それまで新聞を読んで過ごす。
 昔、志布志湾は一面の砂浜で渚に波が寄せてきたが、埋め立てられて様子は一変し、岩壁となってしまった。そこには何の風情もない。渚に会うためには4㌔離れた海水浴場に行くしかない。
 砂浜に寄せる波の音を聞いていると、やはり渚あっての海だと思う。特に海辺に育った身にはその感が深い。もうこれ以上自然をこわすことはやめてほしいと願わずにはおられない。
  志布志市 小村豊一郎(83) 2010/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はジタさん

大掃除

2010-01-12 12:47:20 | はがき随筆
 いよいよ年末となり、1年中のしみだらけ、かねて手の届かぬところ、自分流庭木のせん定も。
 風呂場のカビには参った。酢酸、重曹、手作り洗剤をブラシで力いっぱいこすったら見違えるようにきれいになった。
 天井からぽたぽた洗剤液が落ちるので、顔から着衣も2人共真っ黒になって大笑い。夫婦協力で、力を出し合ったら難儀な婦除もなんの訳もなかったねと言ったことだった。
 平成21年、我が家はおかけさまで何ごとも無く、良い年だった。感謝。
 来る年も平穏無事を願って。
  伊佐市 宮園続(78) 2010/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

アリガトウネ

2010-01-09 12:14:53 | 女の気持ち/男の気持ち
 1月の底冷えのする深夜、家の横の公園から犬の鳴き声が聞こえた。気づいた夫と中学生の息子たちが様子を見に行った。間もなくして手のひらに生後間もない子犬を載せて帰って来た。フェンスに頭を突っ込んで身動きがとれなくなっていたという。
 「お母さん、飼ってやろう。寒いし可哀そうじゃあね」
 「いいや、ダメよ。置いといで」
 自分たちで世話するからと懇願する息子たちに負けて「絶対、責任持ってね」と許したが、2ヵ月もせぬうちに犬の世話は私の役目となり、16年半が過ぎた。
 台風の日以外の朝晩の散歩は、初めこそ苦痛だったが、次第に楽しみに。遠くまで出かけ帰りはヘトヘトになるくらい歩いた。
 近所の人に会えば「犬を飼うのは世話が大変よ」と言われたが、犬も高齢になるにつれ段々と弱っていき、散歩も行きたがらなくなった。やがて寝たきりになり、7月初め私の腕の中で息を引き取った。
 こんなに悲しく、苦いものなら、生きている時、もっともっと気を配り優しくしてやればよかったと後悔ばかりした。犬亡き今、一人で歩いているが、ここも一緒に歩いた、ここもと思い出して涙が止まらなくなり、なぜかごめんね、ごめんねと言ってしまう。
 私が犬の世話をしたのではなく、犬が私を人間らしく育ててくれたのだと思う。チビ、アリガトウネ。
  山口県防府市 坂本和子・58歳 2010/1/8 毎日新聞の気持ち掲載
写真はHey World!さん




縁を切れない薬

2010-01-09 12:12:08 | はがき随筆
 私は心臓疾患と高脂血症のため毎月、通院している。医師の診察を受け、薬局で薬をもらっている。飲む薬は毎日、朝3錠、昼1錠、夜2錠である。
 医師に聞くと、私は生涯薬を飲まねばならないらしい。薬には副作用があるといわれ心配だが、生命を維持するために医師を信じて飲み続けるしかない。そうなると薬代も心配である。薬価基準改定の度に、薬代が上がるのではないかと気になる。
 縁を切りたいが切れない薬。これから先、高齢になればなるほど他の病気も加わり薬の種も量も増えていくのだろうか。
 年は取りたくないものだ。
  鹿児島市 川端清一郎(62) 2010/1/9 毎日新聞鹿児島版掲載

西側防衛

2010-01-08 23:06:30 | はがき随筆
 石垣の内側の樹木。南天の並木、3本の大楠の切り株、サザンカ、イチョウ、その他。
 西側に差し込む強烈な日光を和らげてくれる有り難い木。
 四季の花。色とりどりに咲き誇り楽しませてくれる。
 3本の大楠は祖父が、紅白のサザンカは夫婦で植えたもの。特にイチョウは、任地のおじいさんにもらった木。ひとつひとつが懐かしく思い出される。
 青い火、赤い火にあこがれた若い時代もあったが、今、静かに自然の美を、心豊かに眺めている。西側防衛、ありがとう。
  薩摩川内市 新開譲(84) 2010/1/8 毎日新聞鹿児島版掲載 
写真はSolarisさん

日記

2010-01-07 18:36:19 | はがき随筆
 元日。あいにく今にも降りそうな曇天。朝日は望めなかったが昼ごろは日が差し、気分が明るくなった。夜、風呂上がりに、窓に差し込む月明かりに外に出てみた。ぴーんと張りつめた寒気の空に、満月がこうこうと輝いていた。庭木はくっきり濃く影を落とし、バラの葉はつやつやとして光を返していた。
 元日に満月に気付いたことがあっただろうか。この年になって初めてだった。アンチエージング、世間の情報に右往左往するこのごろ。朝日を仰いで活気ある年と欲張らず、今年は満月の光を浴びながら「怠けないことに精を出す」と誓った。
  出水市 年神貞子(73) 2010/01/07 毎日新聞鹿児島版掲載