はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

1986年

2015-08-25 21:12:01 | はがき随筆


 私事だが、29年ぶりに鹿児島支局に赴任したのが今年5月。最初のこのコラムで桜島の思い出を紹介させていただいた。その後、懐かしさもあって休日に自転車で島を一周してみたりした。それから3ヶ月半。今回の噴火警戒レベル引き上げを聞いて、桜島は今も生きた火山だったことを改めて思い知らされた。
 前回赴任した1986年、桜島で一番のニュースは11月に一抱えもある岩がふもとのホテルに落下したことだろう。死傷者は出なかったが、6人が重軽傷を負った。デスクの指示を受けて1年生記者だった私もフェリーと車で現場へ向かった。
 当時も桜島の噴火活動は盛んで、例えば噴石が当たって車のウインドーガラスにひびが入ったと聞いてもそう驚かなかった。飛行機の操縦席のガラスに傷がついたと聞いて、鹿児島空港まで取材に行ったりもした。大きな噴火があると、灰というよりまるでアラレが降るような印象だった。「ホテルに噴石」と聞いても、最初は屋根が壊れたぐらいに思っていた。
 現場に到着。なんと屋根を突き破って、地下室が火事になっていた。火事はすぐ収まったようだが、地下室から見上げると、1階の床にぽっかり大きなアナが開いていた。ストロボを忘れてテレビのライトの助けで写真を撮って、タクシーで鹿児島支局までフィルムを運んでもらった。携帯電話などない時代。ホテル脇の公衆電話で現場の様子を支局に伝えた。
 よく犠牲者が出なかったと今も思う。ただ、驚いたのは翌朝。近くの海岸に落ちた別の大きな岩を見つけて、試しに表面に水をかけたら、一晩たっているというのに一瞬で蒸発した。
 火山と共に生きるとはどういうことなのか。桜島は恐ろしいけど美しい。防災の大切さはいうまでもないが、そのうえで魅力を発信できるよう今回も願ってやまない。
  鹿児島支局長 西貴晴 2015/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載



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