はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

枯れバショウ

2021-01-28 11:21:43 | はがき随筆
  散策する道沿いには夏の 間、バショウの葉が青くみ ずみずしく茂っていた。だ が、秋が深まるにつれ葉脈 に沿って裂けていった。幅 が細くなった。この「破れバショウ」の頃になると、 何とはなしに昔を思う。
 祖父母は、庭に植わるバ ショウの葉がちぎれ始める のを見て、冬支度に取り掛 かった。
 たどんや炭を使うこたつは3世代の人数分だけ、祖母が準備した。 また一冬、 家の暖を担う火鉢用の新しい灰作りを始めた。当時の家庭燃料はまきだ った。これでご飯を炊き、風呂を沸かした。水が冷たくなると使う量が増える。だから祖父は、まき作りに頑張った。 軒下に高く積み上げていき、家族を安心させたものだ。現代では、想像もしにくい冬本番への備え。自然の営みから季節の変わりを学んでいた。 人と自然が共存する、いい時代だった。
わが家の燃料がまきからLPガスや灯油に変わったのは昭和30年代半ばであ る。 祖父母は既に他界して いた。気楽に冬を迎えることはついに一度もかなわな  かった。母は冬になれば、祖父母の苦労を思い、感謝 していた。 冬、寒さ冷たさが増していく。バショウの葉は姿を消す。「枯れバショウ」と 
なる。 じっと寒さに耐え、春を待つ。やがて陽光の下、新葉がのぞいてくる。 私は幼い時分からその変 化を見てきた。時代が移っても変わらない大切なものを感じる。 目の前の枯れバ ショウにそう話し掛ける。
片山 清勝(80)=岩国市 岩国エッセイサロンより

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2 コメント

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転載有難うございます (tatu_no_ko)
2021-01-29 08:42:03
いつも転載いただき有難うございます。
1年で生まれから逝くまでを教えてくれるバショウに人の途をこの季節になると重ねることがあります。
寒さとコロナ禍、どうぞご自愛くださいませ。
Unknown (アカショウビン)
2021-01-29 12:52:27
心に沁みるエッセイでした。
コロナの収束が待たれます。お気を付けてお過ごし下さい。

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