はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

朝採り野菜

2022-09-18 13:08:07 | はがき随筆
 小さな畑にナス、ピーマン、ゴーヤ、オクラなど作っている。朝採り野菜のみずみずしさ。色の美しさ。「そうだ娘たちに見せましょう」と写メで送る。
 「すごい! 近くなら貰いに行くのに」とか「お母さんが元気なのは新鮮な野菜を食べているからなのだ!」とか電話口でほめてくれる。
 大阪の友人にも送ると、「右の大きいのはヘチマやなあ。近所に鹿児島の人がいてはってヘチマ食べたい言うてはるねん。今年はどこにも売ってないんやて。みそ炒めうまいしな」と彼も食べたそうである。来年はたくさん作って送ってあげたい。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(82) 2022.9.18 毎日新聞鹿児島版掲載

夜空に大きなお月様

2022-09-18 12:59:25 | はがき随筆
 ある方のおじいちゃんが亡くなったそうです。その時3歳の孫が月を見上げていて泣いていたおばあちゃんの所へ駆け寄って「ばぁば、じーじがお月さんになったから泣いとっと?」。
 それに対し、周りの大人たちは「お月さんじゃなくてお星様でしょ」と口をそろえて言ったそうです。すると、「じーじは大きいから絶対にお月さんだ。お星様はいっぱいあるから、どの星か分からんがねぇ」。
 確かにその子どもの言う通りです。それからというもの、おばあちゃんは大きなお月様を眺めながら、おじいちゃんのことを偲んでいるそうです。
 宮崎市 谷口二郎(72) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載


バラの花を7本

2022-09-18 12:51:50 | はがき随筆
 その人に合ったのは昨年の春。祭りで買った「しょいこ」(背負子)を、数日にして私の家まで持って来てくれた。
 お茶をしながら彼の初恋談義。クラスのマドンナだった人に還暦を機に花を贈ったという。
 「バラの花を7本」
 「かすみ草をつけましょうか」
 「かすむからいらない」
 そして家に届けた。
 不在だった人から「ありがとう」の電話。一つのことを成し終えたそんなすがすがしさを彼に見た。
 今年は中止。来年はあの活気あふれる祭りに出会いたい。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園征子(81) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

タヌキでもネコでもない

2022-09-18 12:38:50 | はがき随筆
 近所のご婦人が、タヌキでもネコでもないものが畑を荒らして困るとこぼしていたそうだ。そう言えば最近、我が家の庭にもタヌキでもネコでもないものがうろついている。いつも後ろ姿しか見えず正体不明だった。
 ある日妻が庭を眺めているとそいつが現れた。そしてなんとくるりと振り向いて目が合ったそうだ。細長くとがった顔は図鑑のアナグマそっくれ。トウモロコシや落花生が好物という図鑑の記述とも一致した。タヌキでもネコでもないものの正体は、なんとアナグマだった。
 それにしても、この住宅街のどこにすんでいるのだろうか。
 宮崎市 福島洋一(67) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

幸期高齢者です

2022-09-18 12:31:01 | はがき随筆
 かかりつけの先生は私を「満身創痍」とおっしゃる。でも「内臓には問題ないので百歳まで大丈夫」と太鼓判を押される。それならおおよその余命はあと8年かな。「8年しか」と言うと「8年もでしょ」と。
 要介護2の身を持て余しながら、九十路を辿るのは正直厳しい。百歳まで生きられる自信はない。だかちらこそ貴重な時を幸せに生きたいと思う。ケアハウスに入居して15年目。お蔭で孤独感に悩むことはないし、介護の心配もない。数独やクロスワードなど脳トレで鍛えて、最後の青春を楽しんて幸齢者として過ごすつもりでいる。
 熊本市中央区 増永陽(92) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

城山の鐘

2022-09-18 12:21:57 | はがき随筆
 ゴーン、ゴーン。時を告げる朝6時の城山の鐘の音。眠りについていた街が動き始める。 
 仕事に行っていた頃、職場にも工場の町を抜け電波塔の立つ山を越えて聞こえてきた。8時の鐘。「今日も一日頑張ろう」
 1日6回も鳴る鐘が聞こえない時があった。母は城山の下の病院に入院していた。容体の変化や医師の指示、心電図のモニター、そして点滴の確認に追われる日だった。
 今、遠く離れた畑にも風に乗って3時の鐘が聞こえてくる。夫とお茶を飲む時、穏やかに過ぎていく日々に鐘の音がやさしく寄り添ってくれている。
 宮崎県延岡市 片寄和子(73) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

おやおやなあに

2022-09-18 12:10:05 | はがき随筆
 私が6歳か7歳のころ、夕方になるとラジオから流れて来るメロディーがあった。「知ってるおじさん知ってるかい、なんだろ坊やなんだろな」で始まる「おやおやなあに」の主題歌である。そのあと子供の疑問や質問におじさんが答えるというような内容だったと思う。そちらの方は忘れてしまったが、主題歌だけはしっかり覚えていて、それと共に、若かった父と母、そして幼い妹と私の4人で食卓を囲み、夕食を食べた記憶がよみがえってくる。
 今は父も母も亡くなったが、このメロディーの中に幼い日の家族の思い出が残っている。
 熊本市中央区 北村孝博(71) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

秋の気配

2022-09-18 12:02:15 | はがき随筆
 庭で、カネタタキがチンチンと涼やかにかねを鳴らし、ツクツクボウシがせわしなく鳴いている。
 「つくつくぼうしが鳴く時季は『畑の芋が大きくなっているから掘ってみなさい』と教えてくれているんだよ」と、今は亡き母。少しだけ掘り起こし、十五夜のお月さまに、ほくほくに蒸された初芋をお供えしていた姿が目に浮かぶ。
 暑い、暑いの言葉の連発だった夏。庭先を通り抜ける風に、秋の気配が感じられる昨今。1匹のクマゼミが過ぎ行く夏を惜しむかのように、力を振り絞って鳴いているかのようだ。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(68) 2022.9.17 毎日新聞鹿児島版掲載

爪切り2万回

2022-09-18 11:54:03 | はがき随筆
 30年ほど前の会社員時代、岐阜で開かれた全国規模の会議に出席した。チェックアウト時にホテルの名入りの爪切りをもらう。以来、月に3回ぐらいのペースで両手足20本の指の爪を切っているから、少なく見積もっても2万回以上世話になっている。
 最初は「ホテルのグッズだすぐだめになるさ」ぐらいに軽く考えていた。しかし30年経っても切れ味は全く変わらず、歪みやずれもなし。関の刃物が全国的ら有名な岐阜県、このグッズが果たして現地産がどうかは知る由もないが、この先、当方が先か、切れ味の落ちる方が早いか、生存競争を挑むぞ。
 熊本市東区 中村弘之(86) 2022.9.16 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆8月度

2022-09-18 11:06:45 | はがき随筆
 はがき随筆8月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

月間賞に相場さん(熊本)
佳作は山野さん(宮崎)、清水さん(鹿児島)、増永さん(熊本)


 【月間賞】6日「忘れられないあの音」相場和子=熊本県八代市
 【佳作】6日「あっぱれ。名言」山野秋男=宮崎市
     24日「かわいいよ」清水昌子=鹿児島県出水市
     10日「カボチャ嫌い」増永陽=熊本市中央区



 「忘れられないあの音」は、戦時中、勤労奉仕の帰りに友達と米軍の機銃掃撃を受けたが、幸いにも助かった。しかし弾が地面に刺さるブスブスという音は今でも耳に残っているという、稀有な体験談です。私も近くの製麺所が爆撃され、家の近くまで馬の首が飛んできたのを覚えています。空襲警報のサイレンの響きはトラウマになって、高校生になってもサイレンの音に、ビクッとしました。
 「あっぱれ、名言」は、ローカル番組を聞いていたら、小学生の海水浴場ゴミ拾いが紹介されていた。その一人が、「ゴミを捨てた人に拾ってほしかった」と感想を述べていた。この一言に感動し、ごみを捨てる人にはなるまいと思ったという内容です。負うた子に教えられ、ではありませんが、こういう決心にはいくつになられても、若々しさを感じます。
 「かわいいよ」は、抗がん剤治療で頭髪が抜けていく。鏡の中には、さびしげな表情の自分がいる。見たくもないが、ある時その自分に「かわいいよ」と笑いかけてみた。すると不思議なことに、気持ちが明るくなったという内容です。さぞおつらいことだろうと推察しますが、私たちはそれでも生きていかざるをえない。そのような自分を、文章に書いたりして客観視するのも、生きていく知恵かもしれません。
 「カボチャ嫌い」は、南瓜料理を見ると戦時中を思い出し、箸が進まない。栄養失調になるくらい、毎日が水っぽい南瓜のスイトンであった。今の南瓜は栄養満点だと分かってはいるが、箸は動かない。現在では理解しにくい内容かもしれませんが、ある世代には身につまされる内容です。私も、南瓜は嫌いではないが、一生食べる分を食べたような気がして、あまり食べたくはないですね。8月のせいか、戦争に関する文章を多く見かけました。増永さんの文章を読んで、戦争を知らない政治家たちに、国策を誤らないように、毎日、うらなりの南瓜を食べてみたほしいと考えたりしました。
 鹿児島大学 名誉教授 石田忠彦

百歳

2022-09-18 10:55:54 | はがき随筆
 テーブルに豪華なコチョウランや盛り花。親戚のTおばさんは百寿を迎えた。会うや否や「このコチョウランいくらぐらいするかしら?」と聞かれた。
 いつもあか抜けた若々しい装いで「おばさん素敵」とほめると「あなたこそ」と返され、ガールズトークが始まる。頼りにしていた娘と息子が逝き、ヘルパーさんの助けを借り、一人暮らしだ。おばさんは話したいことがいっぱいある。私はおいとまするきっかけがつかめない。
 「ひろこさんお金は大事よ」。話が2巡目に入ったあたりで意を決して腰を上げた。気骨ある百歳に生きる勇気をもらう。
 宮崎県日南市 矢野博子(72) 2022.9.14 毎日新聞鹿児島版掲載

タカサゴユリ

2022-09-18 10:33:53 | はがき随筆
 4月末、庭に見知らぬ植物の芽が出ていた。様子を見ていると、どんどん成長し7月末に1㍍40㌢に。その後、蕾がつきやっと白ユリと分かったが、蕾は次々と増え、1本の茎に傘状に48輪できた。驚いてスマホで撮ってネットで検索すると、台湾原産のタカサゴユリと判明。数百~数千のペラペラの種ができ風にとばされ繁殖する。いずれ「特定外来生物」として駆除対象になる可能性が高いとあった。かわいそうだが花を楽しんだ後、根ごと引き抜いた。気をつけてみると周囲にも沢山。8~9月に咲くちょっと危険な外来種タカサゴユリ騒動の夏であった。
 熊本県八代市 今福和歌子(72) 2022.9.13 毎日新聞鹿児島版掲載

擬態

2022-09-18 10:17:45 | はがき随筆
 アジサイの葉に、きれいな模様をしたアゲハチョウを見つけた。でも、ちょっと小ぶりだしなんとなくアゲハと雰囲気が違う。珍しい種類かもと思い、急いでカメラを準備し、逃げないうちに撮影。昆虫図鑑をたくさん持っている小3の孫に、SNSで写真を送り尋ねてみた。
 アゲハモドキという「蛾」だった。「蝶」のジャコウアゲハは、毒草を食べて敵から身を守っている。アゲハモドキは毒草を食せないので、ジャコウアゲハそっくりに擬態し自衛しているそうだ。数百万年前の祖先のバタフライエフェクト(効果)による「奇跡」なのだろう。
 鹿児島市 高橋誠(71) 2022.9.15 毎日新聞鹿児島版掲載