はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「トンビに弁当」

2013-10-12 17:57:11 | 岩国エッセイサロンより
2013年10月12日 (土)

岩国市  会 員   山本 一

 波止に座って弁当を広げる。一口目を食べようとおかずを持ち上げた。その瞬間。「ガタン」という激しい音と共に、右手の箸が海中に吹き飛ぶ。左手に持った弁当箱にも強い衝撃。目の前を、海面すれすれから急上昇でトンビが逃げて行く。あっという間だ。いつも釣り場のはるか上空を旋回しているトンビだろう。そばでじっと待つアオサギに投げてやった雑魚を急降下して横取りする。まさか弁当にも興味があるとは。
 その後、波止で弁当を食べる時は必ず、まず空を見上げる。少し食べてはふたをして、また見上げる。食べた気がしない。
  (2013.10.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「汗の教え」

2013-10-12 17:46:52 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   吉岡 賢一

小学4年の夏休み、隣のお年寄りに頼まれるまま、田の草取りに初挑戦した。回転式爪の付いた昔ながらの除草機を押したり引いたりしながら、前に進む。頭からは真夏の太陽が降る。足元ではまかれた石灰が水と反応して、素足のすねやふくらはぎはやけどするほどに熱い。がまん、がまんの半日。駄賃として10円もらった。米作りの大変さを身をもって思い知ると同時に、駄賃のありがたさ、裕福さが身にしみたあの夏。
 以来、黄金色に染まる稲穂の波打つ季節は、また一つ気合を入れ直し、がまんを呼び起こす節目としてきたつもりだが……。
  (2013.10.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載