はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「1枚の写真」

2012-05-31 19:26:39 | 岩国エッセイサロンより


2012年5月31日 (木)

岩国市  会 員   片山 清勝

母の日、贈り物の代わりに遺影の額縁を拭く。ほほ笑んでいる顔から、あの時を思い出す。 

「写真部に入る」と高校入学式の日に息子が希望。初めてカメラを手にした第一声は「おばあちゃんを写す」だった。よそ行きの姿でうれしそうな母ヘポーズをつけながら、真剣に何回もシャッターを押していた。 

母はその中の1枚を大層気に入り「遺影はこれでお願い」と言う。軽い気持ちで聞き流していた。それから2年、その1枚は母の願い通りとなり、予知していたのかと驚いた。高3だった息子の目は潤んでいた。

存命なら今年は白寿の祝い。

(2012.05.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

写真は日々のことを徒然にブログより転載

水の旅

2012-05-31 12:12:05 | はがき随筆


 シャクナゲ公園へ満開のシャクナゲを見に出かけ、大川の滝へも立ち寄った。大川の滝から流れ出る水が、川の水となって流れている。その川の流れにそって歩いていく。林の中を通り抜けると、わっ、目の前に海が広がっている。大川の滝からの水が川の水となって、この海に流れ込んでいる。広い広い海、太平洋。今日は風が強く、波もたかい。ゴーゴーと音をたてながら、白波が押し寄せる。大川の滝の水、川の水、海の水……。水たちの旅は続く。大川の滝の近くにこんな場所があったのかと、なんだかうれしくなった。
  屋久島町 山内淳子 2012/5/31 毎日新聞鹿児島版掲載

カミチョロ

2012-05-31 12:05:57 | はがき随筆
 「蛇、へび、へびがいる」と台所から妻の大声が。2㌢ほどの物体が床の上でくねくねと跳ねるように動いている。よく見るとトカゲのしっぽ。飼い猫のロイドが庭での獲物を口で運ぶ途中にしっぽが切れたようだ。
 私が育った北九州では、子どもたちはトカゲをカミチョロと呼んだ。夏が近づくと友と野原に出かけ、腹ばいになり捕まえた。家に持ち帰り、尻尾をもちながらお互いのカミチョロを争わせるという残酷な遊びに興じていた。机の上で跳ねる小物体や引き出しから出てきた小動物に、私の母も妻と同じように肝を冷やしていたことだろう。  
  鹿児島市 高橋誠 2012/5/30 毎日新聞鹿児島版掲載

大変な裏の仕事

2012-05-31 11:22:41 | はがき随筆


 団地の近くの川に下りてみた。川幅5㍍ほどのきれいな川だ。雨期にはまだ早く水は少ない。足がピタッと止まった。川底に50㌢くらいの大きなコイを見つけたのだ。「何っ!」私は思わず走っていた。いるわ、いるわ、こちらに3匹あちらに5匹、この分では100匹は下るまい。川の浅瀬には死んでいるコイもいた。
 川上から大きな漁網を肩に担いでコイの死骸を集めている人が歩いてきた。聞けば水をきれいにするために、上流の学校では稚魚を放流して育てているとのこと。魚を見て興じていた私は少し恥ずかしかった。
  鹿児島市 高野幸祐 2012/5/29 毎日新聞鹿児島版掲載

遅まきの勉強

2012-05-31 11:16:12 | はがき随筆
 ある動機で古典文学をしたい気持に。漢文は教育を受けたけれど古典は記憶にない。恥ずかしいけれど無学である。遅まきの出発になる。毎週1回図書館に行き、まず「徒然草」の勉強に。
 この作品は兼好さんが西暦1230年代に書いたともいわれていて、当時の随筆に自分の心情や、世相を自由に243文字に分けて記述されている。感動、楽しみ、苦笑い、繊細さに驚きながら今まで読んでいない後悔が。これからスローで良いこの作品の神髄に触れたい。新しい発見に感謝しながら勉強したい。外はもう春は終わっている。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2012/5/28 毎日新聞鹿児島版掲載

母の追憶

2012-05-31 11:09:42 | はがき随筆
 小学3年の夏休みの早朝、今日は山奥の馬頭観音にお参りに行こうと、母に起こされた。
 昔は副業として、牛を飼って、せり市に出したり、養蚕してまゆを阿久根まで担いで売ったり、養鶏をして卵を出荷したりして家計の一助にしたものだ。
 中でも、手塩にかけた牛さん、他人に託していた牛さんを市場に出していた。その畜魂を慰めるために建立されていたのが観音様。
 徒歩で狭い山道の道のりは、小3の体にこたえた。途中、暑いので道路下の川で水浴びしたのを、今でも鮮明に覚えている。
  鹿児島市 高野幸祐 2012/5/27 毎日新聞鹿児島版掲載