はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新1年生

2012-05-08 10:15:56 | はがき随筆
 貸していた家庭菜園が戻ってきた。退職して野菜作りにはまっている友が、野菜作りの面白さを話にきた。主人が「そんならつくっみろかい」。早速、草刈り機と耕耘機で耕し始めた。1ヵ月ほど耕し店の勧めで春キャベツ、インゲン、トウモロコシを植えた。芽が出てくるとうれしくて日参となる。店先の苗が気になりスイカ、カボチャ、ピーマンなど植えてみた。
 収穫までは雨風、日照り、鳥獣被害もあると思うが、早くも孫に「ジジ、ババが作ったスイカとトウモロコシを送るから」と。農業1年生がスタートしたばかり。雑草や青虫と格闘中。
  阿久根市 的場豊子 2011/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載

花見で川柳

2012-05-08 10:01:23 | はがき随筆
 美味しいお弁当ですよの一言に、入会2年目の不真面目生徒は川柳講座の花見の誘いにのった。木漏れ日の下でにぎやかに弁当をほうばりおなかも満たされた頃、初めての試みなんだけどと、先生はバインダに短冊とペンを挟んで配られた。
 お題は「だしぬけ」と「餌」。制限時間30分。うなだれながら散らばり、指を折り始める。選者は2人。6人で勝ち抜き戦。3句しか詠めなかった中の1句が最後まで残っている。1年生が花◎をもらった気分の句は
   だしぬけに
     年を聞かれて
       さばをよみ
  薩摩川内市 田中由利子 2012/5/4 毎日新聞鹿児島版掲載

油断大敵

2012-05-08 09:55:08 | はがき随筆
 前掛けをして私は久しぶりにたき火をした。家の垣根の剪定くずをどんどん燃やす。
 と、何やらきな臭い。煙が太もも付近から出ている。何と前掛けに火がついている。アッチチ、あわてふためき手ではたいてやっと消す。なんとなく『かちかち山』のタヌキになった気がした。あぁ、びっくり!
 2日後、屋根上まで伸びたクスノキを私は電動のこで切っていた。枝がはねて、着ていたセーターを、のこに約20センチ切られた。セーターは私の身代わりに切腹。厚いセーターを買ってくれた妻に感謝した。 不覚。
 つくづく油断大敵だと思う。
  出水市 小村忍 2012/5/5 毎日新聞鹿児島版掲載

生きる

2012-05-08 09:47:28 | はがき随筆
 「靴をしっかりと履いて」「つえは右手でちゃんと持って」。60代の娘の語気が強い。90代の母親は“どこ吹く風”の表情。何となく暖かい待合室の光景。高齢者女性の転倒骨折は股関節が多い。寝たきりになる可能性大。娘はその事を知っている。
 35年前に父が、13年前ら母が逝った。死に目に会えなかった親不孝者。心の中で「幸せだね。すてきかな親娘だよ」とつぶやく。春の陽だまりの中を親娘がゆっくりと歩く。柔らかい風が親娘を包む。限りある時間を慈しむかのように。
 <俺も父ちゃん、母ちゃんに会いてーよ>涙がにじんだ。
  鹿児島市 吉松幸夫 2012/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載