はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

猫2匹と老夫婦

2012-04-06 18:27:42 | はがき随筆






 我が家に突然子猫2匹が舞い込んだ。
一時的に預かるという約束ではあるが、
そのやんちゃぶりは半端じゃない。
 4畳半と6畳2畳の3方を廊下で囲んであるのだが、
ガラスのはめ込んである障子の上の段を破って追いかけっこ。ドタドタドタ…ガシャッ…ドタッ(廊下を走り、
ガラスを爪で蹴り、飛び降りる音)と、その騒々しいこと。
食事の後、体をなめ合ってお昼寝タイム。
 「あらあら何という寝方」。カミさんがすっとんきょうな声を上げた。
チャトラがあおむけになっている。
その寝相の写真、誰に見せても「ワオー!」。
  西之表市 武田静瞭 2012/4/6 毎日新聞鹿児島版掲載

誕生日の決意

2012-04-06 18:14:42 | はがき随筆
 白木蓮が空に映えて美しい。
 3月9日、実母94歳の誕生日を入所先で祝福してくださった。所長さん、介護士の方、入所の友や実子参加で誕生カード、写真、感想文、手作りケーキに感謝。母が歌を披露。大正生まれで、子供6人を生み育て、最期が近づき旅立ちの和服願望。
 「まだ先」と忠告したが、ある日、子供全員実家に集合。母帰宅で箪笥の中を。衣類は見事に整理され、虫干しの日付、ナフタリンなど入念さに脱帽。着物決定。他の品「誰か欲しい?」。沈黙。「タンスの肥やし」と。仏壇の法名は父だけ。「次は誰」と冗談をとばし解散。
  肝付町 鳥取部京子 2012/4/5 毎日新聞鹿児島版掲載

南無阿弥陀仏

2012-04-06 18:08:37 | はがき随筆
 散歩の途中、小さな家庭菜園がある。昨年、菜園にスイカが植えられ、大きくなってきた。 
 と、ある日、菜園の隅に何やら立て札がたっていた。「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏 ○月○日夜の晩、夜9時から朝にかけてスイカが消えました。まだ時期的に早いと思いましたが、味はいかがでしたか…南無阿弥陀仏……合掌」とあった。
 地主はさぞはがゆさがあったはずなのに、こんな言葉の使い方があったのかと感心させられた。
 今年も植えられるのかな。盗人さん、今年はどうぞ立て札をたてさせないでください。
  阿久根市 的場豊子 2012/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載

閉校の寂しさ

2012-04-06 18:01:45 | はがき随筆
 木造文化財に指定された肝付町の川上中学校が3月13日に卒業式と閉校式を行い、63年の歴史に幕を閉じた。卒業生は5人。残り7人は4㌔離れた国見中に転校する。校長先生がこんな時が来ると予言された通りになり、切ない気持になる。
 多い時に120人もいた。延べ959人の卒業生を送り出している。春分の日に訪校する。誰一人もいない校庭に言葉がない。それでも校舎にたくさんの綺麗な花が多彩に力いっぱい咲き、心に安心をくれた。亡父が情熱を注いだ教室、校庭、校門に黙とうし帰路に。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2012/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載

それなのに

2012-04-06 17:55:26 | はがき随筆
 両膝が痛い。立ち座り、階段が辛い。震災後に走り始めた。一日一生のつもりで泥臭く生きていこうと決めた。O脚、短足、マラソンのノウハウ知らず。指導者もなく我流の練習。楽なんかしない。決めた練習ならば途中でやめない。瀬古利彦いわく「マラソンは素質3割、練習7割」。私は素質1割か。
 人は年齢に関係なく変わることができる。弱い自分でもマラソンが走れるようになる。
 両膝が痛い。それなのに走り続ける。なぜなら今走ることが1番好きなことだと知ったから。生かされて今ある命に感謝しマラソンシューズを履く。
  鹿児島市 吉松幸夫 2012/4/2 毎日新聞鹿児島版掲載

野山の味

2012-04-06 17:46:54 | はがき随筆
 別荘(田舎の古い家)から父が一時帰宅。やまづわをたくさん運んできた。2人で山に入り、採ってきたとのこと。近所に配り、残りをミソ炒めにして味わう。今年、初めてのつわぶきの味だ。春は花もいいが、野草もいい。ふきのとうの天ぷら。これはちょっぴりほろ苦く、タラの芽、よもぎもおいしい。もうしばらくすると竹の子の出番だ。畑の土手には、つくしがたくさん頭を並べているが、卵とじをしてくれていた友は遠くなってしまった。自分では、なかなかしないので思い出の味である。これから当分の間、野山へ入り、採る楽しみが格別である。
  肝付町 永瀬悦子 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

歌会始に挑む

2012-04-06 17:37:16 | はがき随筆
 今年の「歌い始めの儀」が1月12日に皇居・宮殿で開かれた。思い返せば昨年1月。お題が「岸」と発表された瞬間「よし私も挑戦しよう」と思った。即刻半紙を買い求め、筆ペンで<対岸へゆらり近づく渡しの上(え)日傘たたみし母は還らず>と認めた。12月に1万8360首の中から、入選の10首が決まるまで「式には私も付き添うから大丈夫だよ。上京が楽しみだなあ」なんて、妻が茶々を入れた。
 結局、私の大それた挑戦に奇跡は起きなかった。でも、ど素人ながら前向きに行動できた自分をちょっぴり誇らしく思ったりもしている私なのです。
  霧島市 久野茂樹 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

緑の鳥神岡

2012-04-06 17:29:25 | はがき随筆
 私は、いつも変わらない緑の鳥神岡(とがめおか)や山河が好きだ。出水から人吉や栗野へ向かう時、伊佐富士ともいわれる鳥神岡が見える道を通る。この小高い山は、いつ見ても緑の濃い美しい三角錐の形をしている。
 親友だったYさんたちと、この鳥神岡に登ったのは3年ほど前。この山を見る度に、今は亡きYさんが浮かぶ。「羽月川のすぐ向こうの赤い屋根が私ん家」と、にこにこして手で示し眼下の眺望をうれしそうに話してくれた。
 私はYさんを思い出すために、緑の鳥神岡が見える道をよく通っているような気がする。
  出水市 小村忍 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

喪失感

2012-04-06 17:24:13 | はがき随筆
 製材所からトラック1台分の材木を運んでもらい電気かんなを自分でせっせとかけて、亡夫が作ったウッドデッキは、なかなかのものでした。春休み、夏休みに帰って来る子供や孫たちと、これまた夫の作った長テーブル、椅子に陣取りバーベキューなど何度楽しんだことでしょう。塗料は赤みを帯びた茶色を塗っていました。
 デッキの囲いは丸太をV字に組んだおしゃれな囲いになっていました。その杉の丸太に白アリが来て、夫の自慢だったデッキを2月に取り壊しました。形あるものはいつかは滅びると分かっていても寂しい。
  霧島市 秋峯いくよ 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

忌明けの席で

2012-04-06 17:16:44 | はがき随筆
 十年一昔というが、50年とは気が遠くなる。
 祖父の50年忌で、各地からはせ参じてくれた。「あの日は寒かったですね」。当時をお思い出したのか従兄弟A。そうです、今は孫の世代になったのです。
 田舎だ。田舎だと騒ぐひ孫や玄孫たち。にぎやかだ。これがわが身内かと思えば心が熱くなった。坊さんいわく「次はお孫さんでは取り仕切れませんな」。その時、従兄弟Bが「機会を見つけて集まろうよ、兄さん」。兄さんと言われれば、また責任を感じるハメとなった。今、顔を思い浮かべ系図作りに取りかかったところです。
  姶良市 山下 恰 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

花のひらくとき

2012-04-06 17:10:56 | はがき随筆
 義父の植物採集歴は長く、牧野先生の新種発見時にお供させていただく機会を得て、深く感動したとのこと。満州へ渡り、シベリヤに抑留された時に、集めた植物採集の標本がすべて徒労になった。帰国後は植物を分類し記録し、退職後はワープロで文章を書き記して分厚い本となり残されている。
 植物と言えば昨年の敬老会で小学生の可愛い歌や、中学生の見事な太鼓を楽しませてもらい、女の子にもらった「あさがおのたね。長生きしてね」と書かれた袋をいつも目の届く所に張っている。忘れないで種をまき、花を咲かせるのが、今私の一番の楽しみです。
  鹿屋市 小幡由美子 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

母の生き甲斐2

2012-04-06 17:04:59 | はがき随筆
86歳で俳句を指折り始めた母は、俳句によって心の充実を感じるようになったようだ。「見てくれんか」と送られてくる俳句の末尾に、午前2時とか記されていることが多く、母がいかに夢中になって句作しているかがうかがえる。
 母の俳句には季語が入っていなかったり、季語が二つとか三つ重なっていたりする。それらを指摘すると、作り直した句がまた送られてくる。母が俳句を始めなかったら、こうした手紙のやりとりはなかっただろう。
 何かを始めたら、誰だって1年生。そして2年生を目指す。俳句1年生の母へ、拍手。
  伊佐市 清水恒 2012/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

今年も元気だ

2012-04-06 16:58:43 | はがき随筆
 3月3日桃の節句だと言ってこちとらは独居老人。家に雛壇があるわけでもない。
 啓蟄でカエルも穴から出るころだと用もないのに表に出た。空はどんより寒くもない。
 繁華街でバスを降り1時間ほど歩いてやっと見知った顔を見つけた。同級生だ。「おう」と声を掛けると「おう」と言う。「元気か」と聞くと「元気だ」と言う。まるで金子みすゞの詩だ。近くの茶店でコーヒー1杯で2時間もしゃべった。口は達者のようだ。「じゃあな」と外に出たら雨がしょぼしょぼ降ってきた。走ってバスに飛び乗る。これが老人の健康法だ。
  鹿児島市 高野幸祐 2012/3/31 毎日新聞鹿児島版掲載