昨年10月、私の還暦を祝って子供たちが2泊3日の家族旅行を計画してくれた。88歳の義母は施設のショートステイに行ってもらい、細々と続けている店も「臨時休業」の張り紙をして、準備万端整えた。
「行き先はヒミツ。その方が楽しみだからね」
すべてを娘に委ね、夕方出発した。
名古屋で1泊し、翌朝、浜松に住む息子がレンタカーで迎えに来てくれた。「お母さん、上高地へ行くよ」と娘。中学の時に教科書で読んだエッセー「梓川」。焼岳の噴火でできた大正池の神秘的な風景の描写に魅せられ、いつかその地を訪れたいと、それが私の夢だった。
安曇野のそば屋で北アルプスの峰々を眺めながらの昼食。心もおなかも満たされ、「さあ出発」という時、夫の携帯が鳴った。
「義母の具合が悪くなり、救急車で病院に連れていく」という施設からの連絡だった。宿をキャンセルして来た道を折り返し、病院に着いたのは夜9時を回っていた。酸素吸入をして肩で息をしながらも、意識ははっきりしていた。
入院して4ヵ月、一度持ち直した義母は肺炎を患い、立春の日に旅立った。
旅行を中断して帰って数日後、友達からメールが届いた。「夢が終わったらいけないと、神様が行かせてくれなかったのかもね。でも夢は持ち続けましょう」と。夢に出会って四十数年。夢はまだ続いている。
山口県下関市 田村好子・60歳 2009/11/17 毎日新聞女の気持ち掲載
「行き先はヒミツ。その方が楽しみだからね」
すべてを娘に委ね、夕方出発した。
名古屋で1泊し、翌朝、浜松に住む息子がレンタカーで迎えに来てくれた。「お母さん、上高地へ行くよ」と娘。中学の時に教科書で読んだエッセー「梓川」。焼岳の噴火でできた大正池の神秘的な風景の描写に魅せられ、いつかその地を訪れたいと、それが私の夢だった。
安曇野のそば屋で北アルプスの峰々を眺めながらの昼食。心もおなかも満たされ、「さあ出発」という時、夫の携帯が鳴った。
「義母の具合が悪くなり、救急車で病院に連れていく」という施設からの連絡だった。宿をキャンセルして来た道を折り返し、病院に着いたのは夜9時を回っていた。酸素吸入をして肩で息をしながらも、意識ははっきりしていた。
入院して4ヵ月、一度持ち直した義母は肺炎を患い、立春の日に旅立った。
旅行を中断して帰って数日後、友達からメールが届いた。「夢が終わったらいけないと、神様が行かせてくれなかったのかもね。でも夢は持ち続けましょう」と。夢に出会って四十数年。夢はまだ続いている。
山口県下関市 田村好子・60歳 2009/11/17 毎日新聞女の気持ち掲載