はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

終わらない夢

2009-11-22 17:44:52 | 女の気持ち/男の気持ち
 昨年10月、私の還暦を祝って子供たちが2泊3日の家族旅行を計画してくれた。88歳の義母は施設のショートステイに行ってもらい、細々と続けている店も「臨時休業」の張り紙をして、準備万端整えた。
 「行き先はヒミツ。その方が楽しみだからね」
 すべてを娘に委ね、夕方出発した。
 名古屋で1泊し、翌朝、浜松に住む息子がレンタカーで迎えに来てくれた。「お母さん、上高地へ行くよ」と娘。中学の時に教科書で読んだエッセー「梓川」。焼岳の噴火でできた大正池の神秘的な風景の描写に魅せられ、いつかその地を訪れたいと、それが私の夢だった。
 安曇野のそば屋で北アルプスの峰々を眺めながらの昼食。心もおなかも満たされ、「さあ出発」という時、夫の携帯が鳴った。
 「義母の具合が悪くなり、救急車で病院に連れていく」という施設からの連絡だった。宿をキャンセルして来た道を折り返し、病院に着いたのは夜9時を回っていた。酸素吸入をして肩で息をしながらも、意識ははっきりしていた。
 入院して4ヵ月、一度持ち直した義母は肺炎を患い、立春の日に旅立った。
 旅行を中断して帰って数日後、友達からメールが届いた。「夢が終わったらいけないと、神様が行かせてくれなかったのかもね。でも夢は持ち続けましょう」と。夢に出会って四十数年。夢はまだ続いている。
  山口県下関市 田村好子・60歳 2009/11/17 毎日新聞の気持ち掲載

あこがれの人

2009-11-22 17:33:41 | はがき随筆
 「あっ、Hさんだ」
 14日の土曜日、MBCラジオ「朝のとっておき」でHさんのエッセーが紹介された。Hさんは、私のあこがれの人だ。
 Hさんは、子育てと介護をされているのに毎月、新聞やラジオに投稿している。ものすごく心の余裕があってパワーがあり、そして色・音・風景が思い浮かぶ。私のまだまだ学びたりない書き方が、Hさんにある。
 あこがれの道に一歩近づくには、引きこもりがちの心と体を外に出して、多くの人と出会いたい。人が怖いこと、自分の思いを□に出せないことも、克服したい。
  いちき串木野市 森みゆき(23) 2009/11/22 毎日新聞鹿児島版掲載

常連

2009-11-22 17:16:08 | はがき随筆
 初夏のころ、湯船につかってふと見上げた窓ガラスに、I匹のヤモリがぴたりと白い腹、手足を広げて張り付いていた。それ以来、毎夜同じ場所に見る。
 内側からこんこんとガラスをたたくと「興味はないよ」と言わんばかりにのろのろと降りていく。明かりに虫が寄ってくるのを待ち伏せてのことだろう。
 秋風が吹くころふっと来なくなる。もう3年は繰り返す。
 今、菜園に美しいジョウビタキが飛び交う。去年縄張りにしていたあの小鳥かもしれない。庭のサザンカが咲き始めた。
 常連の虫や小鳥に、巡る季節をいとおしんでいる。
  出水市 年神貞子(73) 2009/11/21 毎日新聞鹿児島版掲載



スズメおどし

2009-11-22 17:08:05 | はがき随筆
 スズメおどしの定番は、昔からかかしだった。今はコンクール化してにぎわっている。
 わが家では、防鳥テープを使った。
 ところが、テープを乗り越えて稲穂をついばんだのだろう。こうべを垂れるはずの稲穂が、白くまっすぐ立っていた。スズメ軍団にしてやられたのだ。
 すぐにテープを縦横無尽に張った。
 効果があったのか、電線にいたスズメに訪ねてみた。
 チュンチュンと鳴いた。多分「こわい、こわい」と鳴いたのだろう。
 ごめんね。ありがとう。
  出水市 畠中大喜(72) 2009/11/20 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はまる・ライアンさん