遊鵬窟

展覧会感想メモ等

春夏秋冬 ―彩遊― 牧進展

2013-10-20 22:35:58 | 展覧会

会場:日本橋三越本展 会期:2013年10月22日まで

日本画の花鳥画はしょうもない作品ばっかりだと思っていましたが,この方のはひと味違います。

最もよいと思ったのは黄菖蒲を光琳風に描いた「春麗」。琳派の表現をおさえきった上で,勝負の表現に個性を出しています。さすがに真っ先に売れていました。対をなす秋の「秀麗」より魅力的でした。

四季の花と富士を描いた連作では,霜の降りた椿の葉に油絵を超える写実を見せつける「歳旦」に喫驚しました。

屏風「麗日遊鱗」は池の真鯉というよくある画題ですが,水をそれと描かずに鯉の動きだけで描ききり,しかも距離をおいてみると鯉の動きの動線まで生きているように見えてしまうという手練の技。また,鯉の対する愛情がないと描けない作品でしょう。

一方,「道辺」では草むらの中で遊ぶ3羽の雀を表情豊かかつ諧謔性をもって描くとともに,イネ科の雑草を超絶技巧で再現し,これまたスから落ちたスズメのヒナを育てていたという画家ならではの作品に仕上がっています。

さすが川端龍子の最後の内弟子,川端康成の贔屓画家だけのことはあります。

2013年10月16日観覧


生きる伝説松本零士展

2013-10-20 22:19:39 | 展覧会

会場:さいたま市立漫画会館 会期:2013年11月24日まで

90年代以降画力の衰えの激しいものの,かつては光芒を放っていた松本零士の原画を公開する,小規模ながら面白い展覧会。

999は劇場版ポスターの原画以外は,画力が劣化した90年代の第2部の原稿で,なぜ円熟期の第1部を出さないのか理解に苦しみますが,当時の画風は,千年女王の宣伝用ポスター原画に見ることができます。往年のファンは,この2点が見られるだけでも足を運ぶ価値があるでしょう。

また,ヤマトのジュラ編(ここで原画を見るまですっかり忘れていました)やセクサロイド,第4畳半物語の原画という,なかなかマニアックなものも展示されています。松本零士の作品世界を示すものとしてはガンフロンティアや戦場まんがシリーズも外せない気がしますが,会場が狭いのでしかたのないところ。

2013年10月12日観覧


モローとルオー 聖なるものの変容

2013-10-20 21:59:49 | 展覧会

会場:パナソニック汐留ミュージアム 会期:12月10日まで

ルオー,マティスという巨匠を見出し,育てただけで教育者としても不朽の業績を残したモローですが,2人の弟子とはあまり画風が似ていないと思っていました。が,ルオーの初期作品を師の作品と対比することで,師弟関係に迫るという,本展の意欲的な試みに目からうろこでした。同時に,色彩と単純化したフォルムで構成されたモローの習作群からは,マティスを先取りした部分も少なからず見えて,やはりこの3人は師弟なのだなと納得させられました。

今展の白眉は,ルオーがローマ賞のために課題として提出した「死せるキリストとその死を悼む聖女たち」。丁寧な仕事ぶりと真面目すぎる正確が画面に現れています。

モロー作品では岐阜県美術館からも2点出ており,かの館のすぐれたコレクションセンスを感じました。

2013年9月28日観覧


ターナー展

2013-10-20 21:09:16 | 展覧会

会場:東京都美術館 会期:2013年12月18日まで

27年ぶりのターナー展。世界がエネルギー/光からで構成されていることを直観で見抜き,それをキャンバスで示してみせた光のシェフ,嵐マニア,印刷=メディア産業にいち早く飛び乗った慧眼,パトロン営業を欠かさない如才無さ,サロンでの老害ぶり,この画家の単純ならざる様々な顔を見せてくれる展示です。

86年の展覧会でも感じたことですが,反射光でなくそれ自体が発光するかのような情景という,ターナーの持ち味は,ヴェネツィアを描いた作品に最もよく出ていると思います。「戦争」と「平和」の対作品にも光の魔術は遺憾なく発揮され,特に前者には,最近の洗浄により,血の赤が落日の光に溶けゆく中に佇む,元アンピールと従卒の非人間的な姿に,ナポレオン戦争の時代を生き抜いた者の実感が反映しているようです。時間性を帯びた動的な光の表現は彼の持ち味ですが,初期の雪崩を描いた作品にも,クールベを先取りしたような厳しい自然への愛好とともに,一瞬を切り取るのではなく,一定幅の時間を画面に凝縮定着させた妙技を見ることができます。

他方,ターナーの作品からは,集団としての人の営みやその結果としての都市景観への関心は感じるのですが,人物の記号化された顔貌表現からすると,個人,そしてその内面に対する関心は薄いように見えます。また,都市景観の考証も全くいい加減な反面,86年展で出品された魚のスケッチには強い感情移入がなされていることを思うと,あるいはこの超然とした態度こそが光と色彩の純粋な探求の基盤にあるのかもしれません。さすがは,未亡人と10年同棲して2人も子ともを作っておきながら,友人にも隠しおおせていたエピソードも,家族のデッサン等が出展されていないところを見ると,なんか納得できます。

2013年10月19日観覧