遊鵬窟

展覧会感想メモ等

国宝大神社展

2013-04-28 11:50:25 | 展覧会

会場:東京国立博物館 会期:2013年6月2日まで(前期5月6日まで,七支刀5月12日まで)

会場内の画像は主催者の許可を得て撮影したものです

 

ブロガー内覧会に当選したので,取材させていただきました。当日,楽しみにしていた上野達弘先生の著作権法の講演とバッティングしたものの,どちらの上野を選ぶか迷うまでもなく,仕事を切り上げて東博に向かいました。

 

開場前に主催者より「仏教美術に比べ,一般観覧者には敷居が高い,あるいは取っ付きにくいと思われがちな企画なので,ぜひブロガーの方々に宣伝していただきたい」という,内覧会の趣旨をいただきました。そこで,この展覧会の特徴を端的に申し上げると,前半は正倉院展,後半は秘仏展の裏バージョンということです。一つの展覧会で2度おいしいのはもちろんですが,正倉院宝物や仏像に加えてこの展覧会を見ることで,神仏分離以前の古代・中世の宗教と美術の全体像が初めて見えてくるわけです。

 

さて,展示内容ですが,第1室の古神宝,前期は熊野速玉大社から,バサラ大名佐々木道誉や足利義満はこのような装束をしていたのだろうかと思わせる,見事な装束類が来ています。さらに,武官の装備品として,鳥頸太刀が出ています。これは,蔵人所の鷹飼が鷹野御幸の際に佩くべきものとして中世の鷹書に書かれているもので,年中行事絵巻にも描かれていますが,実物を見るのは初めてで,鷹狩をかつてかじった身としてはなかなか感慨深いものがありました。

 

第2室は考古で,企画した井上洋一先生によると,旧石器から展示したかったそうですが却下となったとのこと。ギャラリートークでの軽妙な語り口は,16年前に國學院の考古学各論II(弥生考古学)でお世話になったころと全く変わっていませんでした。神道考古学は,大場磐雄以来の國學院考古學の独壇場ですね。

考古学関係は,第5室の伝世品部門にも,須田八幡宮人物画像鏡,宮地嶽神社の金銅製壺鐙と瑠璃壺,石上神宮の鉄盾と七支刀と錚々たる稀覯の優品が並びます。宮地嶽の壺鐙は初見,七支刀は,奈良国立博物館で平成16年に見て以来です。七支刀の公開は本来5月6日まででしたが,宮司さんの特別のご好意で12日まで延長されたとのこと。鹿島神宮の黒漆平文大刀も威風堂々の姿で出迎えてくれますが,小村神社(高知県)の金銅装環頭大刀は出ていません。11月15日の大祭の時に見に来いということなのでしょう。

第4室,祭礼の光景では,鞆淵八幡神社の沃懸地螺鈿金銅装神輿,金剛峯寺の黄地蛮絵袍・縹地蛮絵袍(天野社由来)が目を引きます。ササン朝あるいはビザンティンの文様が和様化しつつもここまで残りました。

伝世品コーナーの奉納太刀類は,思ったより控えめのラインナップですが,反対側は平家納経,狩野元信筆奉納神馬額,ときて宮地嶽の瑠璃壺に続く,なかなか大胆な展示構成です。

石上の鉄盾を抜けると,いよいよ神像の一挙展示です。

仏師系の神像が多いということもありますが,平安仏,特に不退寺の仏像などと共通する造形感覚を感じます。霊木だったかもしれない素材の肌合いを生かした仕上げが目立ちます。名品が並ぶ中でも,白眉は熊野速玉大社の家津美御子大神坐像です。法隆寺聖霊院の聖徳太子坐像に匹敵する威と品格を備えるものと言えましょう。衣紋部の大胆かつ隙のない造形もすばらしい。

これと並ぶ優品は,小丹生之明神男女神坐像。家津美御子大神坐像が,様式的デフォルメで,人の姿に神性を与えているのに対し,こちらの2対は,写実表現の追求の中で,神としての厳かさを示しています。顔料の保存状態も実に素晴らしい。

 

展覧会のトリをつとめるのは,ポスターにも使われた,本来3幅対の女神画像です。初見だとばっかり思っていたら,平成6年の「女神たちの日本」展(サントリー美術館)で会っていたようです(展示替えがなければ)。記憶力の減退たるやおそるべし。

 

各時代の美意識に浸るもよし,日本列島における神霊意識を古代ヘラスやスキタイとの比較,あるいは太平洋の島嶼とのつながりにおいて考えるもよし,大型展覧会の続く今年にあって,東博の企画力と交渉力が遺憾なく発揮された出色の展覧会と言えるでしょう。

 

2013年4月23日観覧