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映画【トニー滝谷】

2006-06-03 02:30:23 | 映画
トニー滝谷
2004
市川準


村上春樹、短編集「レキシントンの幽霊」に収録されている短編です。
原作も読んではいるのですが、すっかり筋を忘れていました。おかげで新鮮です。
筋はどこかのサイトで読んで頂くとして。

何というか「切ない」と言うことを正直に映像にすると、多分こういう事なんだろうなという映画です。
淡いトーンでカットも少ない。
ただのフィックスで撮った水面も雲も町並みも窓の外の景色もクロゼットに掛けられている洋服達も、それだけでぞくっとしてきます。もの凄い意味が込められている、ように感じる、そう考えさせるように撮っている。
一番好きだったのは序盤に出てくる水面のカット。
決して綺麗ではないどこかの海だと思うのですが、"大筋で汚れてはいるが綺麗な一瞬"という映像にやられました。
誰しもが持つその人の綺麗な一瞬の比喩、なんでしょうか。
直接的に主人公が結婚し、孤独な人生に一瞬の光が刺す瞬間が描かれているワンシーンがあるのですが、ほころびます。イッセー尾形と宮沢りえの表情がとても素敵です。
とても幸せな気持ちにさせる。

サントラを担当しているのは坂本龍一。
こちらもまた優しい曲。マイルス・デイビスばりに映像を見ての即興演奏ってことはないでしょうけど、映像に確実にリンクしている。後付け感が無い。

市川準監督に坂本龍一、イッセー尾形と宮沢りえ。76分。贅沢な映画だなあ。


淡々としたとても少ない科白と登場人物。
人によっては単調な、つまならい映画だと思ってしまうかも知れません。


小説の映像化は難しい。その風景が読む人によってまちまち。その最大公約数を撮って「青春デンデケデケデケ」の様に"そんなならやらなきゃ良かったのに"という薄い作品になるか、「69」の様な"やりたいことは分かるが、多分それは違うぞ"という作品になってしまいます。
よく言われることですが、村上春樹は映像にするのは特に難しいと思われていますが、そのトーンをちゃんと抽出して脚本を起こせば映像にならないはずはない。で、それをやっちゃったのが市川準監督。凄いです。素晴らしいです。


私はこの映画好きです。久々にど真ん中でした。