「本日コーヒーの日になりますので半額の200円になります」
誰でも平等に半額になるとは決まっていない。それは世の中への貢献度によっても変わるらしい。俺はAIにコントロールされて日々自転車を動かしている。歩道を行けばあっちへ行けと視線が刺さる。車道を行けばどきやがれとクラクションが鳴る。安定した姿勢で道を走ることは簡単じゃない。クレープはひねくれて蛇女に、寿司は粉々になって猫の耳にマッチングしてしまう。
目標のピンは店に近づいたところで急に動いた。アップデート直後は決まってどこか挙動がおかしくなる。俺は慌ててブレーキをかけた。
「わざわざ前に来て止まるなくそが!」
自転車を追い越し歩いて行く2人のどちらかが吐き捨てるように言った。俺はアプリに気を取られすぎていたのか。止まりたい時に止まりたい場所に止まっていいのは歩行者だけなのだろう。見知らぬ若者の正論めいた言葉によって、俺の魂は死んだ。ピンは一定時間ふらついてからようやく落ち着いた。自転車は空っぽの俺と小さなカステラを結びつけて車道の端を突き進んでいく。コントロールしているのは、俺でなくアプリの方だった。
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