折句ラッシュ・クリスマス

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、縦読み
クジラうえリクエストした水族館マダイが歌うスローバラード、クリスマス

裸族来襲

2019-04-19 02:15:51 | 夢追い

 この透明な仕切はなんて素敵だろう。僕はわかるような気がする。通り過ぎるものたちを眺めながら、時間が過ぎていく。自分の居場所はそれほど変わらないけれど、周りが絶えず動いていくことで時間の流れは感じられる。魚たちの気持ちが、わかるような気がする。まるで退屈というのとは、ちょっと違う。

「あんたが勝手に想像を膨らませただけだろう。立場が違うんだよ。魚たちは興味の的、でもあんたは眺めているだけだろうが。あんたは何もわかっちゃいないんだ」

 何だって。僕の想像を疑うなんて酷い奴だ。

 懐深く隠し入れたナイフを、取り出す。けれども、懐は想像以上に深い。取り出せない殺意の奥、見たことのない魚たちが泳いでいる。見たことのない色の、見たことのない仕草の、見たことのない尾鰭の、見たことのない鋭利な、見たことのない泡を吐きながら、戯れている。

 

「こんなところにもいたのか」

「何を言っているの? あなたが作った遊び場でしょ」よかったね、深すぎて、届かなくて、誰も傷つかなくて、すんだの。

「教えてあげるよ。私の本当においしいところ」

 

DHA  DHA ……

 

 彼らの悪ふざけは既に度を越したものになっていて、夜が深まったこともあり僕は近所への迷惑が気になっていた。僕自身も少し酔っていたし、その意味では普段できないような強気な態度、自分の意思を相手にストレートにぶつけることも多少ならできそうな顔つきに変わっていたのだと思う。少なくとも1番下っ端の奴に対してなら、そう弱気になる必要もないのだ。今まで1度も口にしたことのない呼び方だって、できる。

「おい、大吉」

 言いたいことは言おうと思った。けれども、自分が思うほど、声は出ていないようでもあった。僕は無理に唇を広げて、もう1度その名を口にした。

「前にここに来たのはいつだった?」

 大吉は、答えようともせず、ポテトチップスの袋の底の方をあさっている。

「いつ以来だっけ?」

 先月か、半年前か、それとも去年のことか……。もう、粉ほどしか底には残っていないというのに、まだ何度も指をつけては離すことを繰り返す。大吉は答えない。あるいは答えられないのかもしれない。

「おい、どーなんだー!」

 叫ぶのと同時に家の外で、クラクションが鳴り響いた。爆音がして、勢力が1ケ所に集中すると、重い武器を使用して車体を打ち砕いているような音が続く。モヒカン裸族の抗争が、この季節になるといつも激しくなる。女の悲鳴、犬の鳴き声、硝子が割れる、火の手が上がる……。よくないことがたくさん、外でたくさん、今、起きている。止める暇もなく、誰かが窓を開けていた。

 

「僕たち生きてますよー!」

「やめろ! 余計なことを言うな!」

 僕は急いで窓を閉めたけれど、面白がってまた別の奴が開けてしまう。

「見たぞ! おまえらみんな見たぞ!」

「馬鹿! 仕返しされたらどうするんだ?」

 ここは僕の家だぞ。けれども、酔ってすっかりおかしくなった奴らにはまともな理屈は何も通じない。その後も、挑発するような言葉はエスカレートして、更に酷いものへとなっていった。まるで映画のスクリーンに向かって、何か言っているような気分なのだ。自分たちは安全な場所にいて、我が身に害が振りかかることなど微塵も考えていないといった様子だ。完全にあきらめて、僕は目を閉じた。眠っている内に何もかも終わればいいと思いながら、じっと目を閉じている間にも、騒ぎは大きくなっていく。どちらかが完全に勝利するまで抗争は終わらない。

 破壊すべき物がなくなったのか、暴力的な音は小さく収まったかと思ったら、雄たけびが上がる。目撃者を消せと言う声がして、怒号は家の方に迫ってくる。ついに、こちらにも攻め入ってくるのだ。とても勝ち目はない。自分だけは助かろうと僕はこっそり秘密の押入れの中に隠れた。どかどかと乱暴な足取りで奴らは階段を上がってくる。押入れの奥には秘密の穴が開いていて、地上に下りられるようになっていた。仲間がやられている間に、脱出するのだ。冷たい企みに興奮を覚えながら板を外して、地上の様子を窺うとそこには何本もの剥き出しの脚が待ち受けているのだった。もう、手遅れだ。悟りと同時に全身が震え始めた。小さな呻き声は、あっけなく仲間がやられた証拠だった。しばらくして、肉の焼ける匂いがすると、嘔吐しそうになるのを必死で堪えた。押入れの中で小さく丸まりながら、自分の存在が無になることを祈った。

 

「兄さんも、どうです?」

 いつの間にか押入れの扉は開いていて、男が皿を差し出しながら言った。モヒカン裸族の仲間と誤解しているようだった。この肉を食べさえすれば、自分は助かるのでは……。食べるしかない、食べればいいんだ、食べよう。僕は皿に手を伸ばす。けれども、モヒカン族の手は、今度は僕のお腹辺りに触れていた。

「ん? 何だ? 何か着ているの?」

 皿を持ったまま、もう動けなくなった。仲間ではないとわかれば、もう食べる側ではないからだった。これで本当におしまいだ。自分だけ助かろうなんて、虫が良すぎたのだ。おい、大吉、やっぱりおまえが調子に乗るからじゃないか。まだ平和だった頃を、一瞬振り返った。

「おーい! まだ、1匹いたぜっ!」

 最後の獲物に止めを刺すため、仲間たちが集まってくる。

 


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