眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

事前不安の続き/ブラック・カフェ

2023-06-12 19:52:00 | コーヒー・タイム
 物事は始まる前が大変不安だ。色々な可能性が残っていて、何も決まっていないからだ。実際のところ始まるかどうかさえも定かではない。どこでどんな邪魔が入り込むかわからないし、自分自身に問題が起こるかもしれない。いざ始まってしまえば、第一の問題は解決したも同然。あとは覚悟を決めて、動き始めた物語に向き合って集中するだけだ。けれども、始まったと思ってもまだ油断できない場合もある。自分は始まったつもりでも周りが止まったままの時はどうだろうか。
 56歩。中飛車を宣言した手に相手の手が早くも止まっている。
 長考中?
 通信障害?
 時間切れ勝ちか?
 待っても待っても動かない局面に不安は高まる。
 意を決してシャットダウン。BGMが消える。
 改めて対局を開始。
 あっ! 84歩が指されている。残り時間は2分。
「止まっていたのは僕の方か……」
 あきらめる? 普通に指して負ける?
 この場合、有力な道は1つだ。
 破れかぶれでさばいて圧倒して勝つのだ。
 条件は相手が好戦的にきてくれること。待たれると自然に辛くなる。(それでなくても振り飛車は待たれると辛いことがあるのだ)


 初めて行くカフェは不安が多い。店長は正気だろうか。アラクレの雇われ店長だろうか。入り口と出口は分かれているかもしれない。間違えるとスタッフ一同から袋叩きにされるかもしれない。ミルクはちゃんとわかるところに置いてあるだろうか。高すぎるところにあって自分では手が届かないかもしれない。指定席と予約席で埋め尽くされていたらどうしよう。分煙はされているだろうか。分煙だとしても2対8、1対9の比率で肩身が狭いかもしれない。フードとセットでなければ何も販売しない頑固店長だったらどうしよう。カレーもパスタもレトルトだろうか。全部がレトルト・サービスだったらどうしよう。スタッフは全員アンドロイドかもしれない。マドラーは奇妙によじれていないか。とんでもないカップで提供されるのではないか。何かの拍子に雇われてしまいはしないか。田舎にも帰れないほどに働かされてしまうのではないか。

 トレイを持って2人掛けの席へ向かう。ソファーにはガムテープが貼られている。前の人が一旦近づいてから店の奥へ歩いていった原因は、これだろう。僕はソファーではなく、椅子の方に掛けた。地下街を行き過ぎる人を見ることはできない。反対に店の様子を観察しやすい向きだ。返却口の場所がわかる。どんなペースで、どんな人がやってきて、どんなものを注文して、どのようなペイを用いるのか。観察しながら、スタッフの顔も見える。思っていたよりも落ち着いた感じだ。ゆっくりと時間が流れていく。


 すれ違う列車に手を振って見送ったあと、ホームにまだ動かぬ人が残っていることに気づいてはっと我に返る。先に行ったのは彼らの方で、我々はまだこのホームにいるのだ。止まってみえたあの列車は我々の幻想にすぎなかった。


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