眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

規約違反

2013-10-11 13:30:16 | 夢追い
 趣向を凝らした種々の付録に惹かれて、雑誌を手に取ってみる。どれもこれも、それなりに引きつけられるキーワードや話題性を持っているが、それらは本当に今の自分に必要なものだろうか。立ち並んでいるという姿勢によって、この時ばかり輝いて見えているだけではないか。家に持ち帰った雑誌を、ここ数年の間に開いたという記憶はない。好奇心は、家に帰るまでに溶け尽きてしまう。雑誌は買わないぞ!
「そうだ、そうだ!」
 見知らぬ隣人が激しく同意したので、店を出てからしばらく肩を組んで歩いた。ぽつぽつと落ちた雨が、大地に寡黙なヒョウを創造したが、しばらくしてヒョウは干からびてしまった。私はこちらですので、と隣人が言って去った。

 街角のチェスウィンドウで足を止めて、チェスを観戦していると背後から声がした。
「おい、君。最近来なくなったけど、どうしたんだ?」
「やめたんです」
「おい、君。変なタイミングで来なくなったな」
 一緒に来ていたもう1人の会員の男が言った。タイミングが悪いことが不評で、それが元で会員の間で大きな問題が持ち上がっていると言う。
「規約によると」
 男は規約を開いて見せた。対局料月3万円(前納制。途中下車不可)。
「対局してなくても払うのですか?」
「更に詳しい規約によると……」
 そうしてまた男は別の規約を広げる。
 3行目から、字がかすれてよく見えなかった。対局料?
「しっかりしていただかないと」
 読解不可能な規約を、押し返しながら言った。男は規約を受け取らず、首を傾けている。
「わけのわからないお金は払えませんよ!」
 もう1度、念を押して言った。

「どうしてやめたのですか?」
 突然、別の会員が口を挟んだ。
「他に夢中になることがあったからです」
「それはない!」
 男は言葉を被せるように言い切った。あなた何なんですか。あなたは僕なんですか。
「絶対にないね」
 更に念を押すように、言った。あなた何者なんですか。僕なんですか。
「私はあなたを知っているんだから」
 何も反論する気にもならず、僕はビショップのようにその場を離れた。


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