眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月の連動

2012-12-21 00:19:07 | クリスマスソング
「そろそろクリスマスソングをかけようか?」

「まだ少し早いんじゃない?」

「わからないようにこっそりとかけようか?」

「わからないように?」

「わからないような曲があるんだよ」

「それはクリスマスソングなの?」

「クリスマスソングだけど本気のクリスマスソングではない」

「本気のクリスマスソング?」

「アルコール度数8パーセントのワインのような」

「それはワインなの?」

「酒のことはよくわからないよ」

「どういう時に聞く曲なの?」

「聞きたいけど聞きたくないような気分の時だよ」

「聞かなければいいんじゃない?」

「聞かなくてもいいけど、聞いてもいいなという時だよ」

「それはどういう時なの?」

「まあ、何かはっきりしかない時間帯だね」

「12月の始まりとか?」

「11月の終わりの辺りとかだよ」





 もうすぐ街は12月となりあらゆる行事が密となり連携を深めるだろう。まちびとは12月の図書館に立ち寄って12月に因んだ本を借りる。ありとあらゆる書物は12月の色に染まり、嫌々サンタの格好をした職員が、まちびとに本を差し出す。本を借りたという情報がSNSと連動して、直ちに12月中の友達に伝わる。まちびとは12月に急き立てられるようにして本を開くが、勢いが裏目に出て3ページ目に入ったところで12月の足止めを食らう。12月の栞を挿んだという情報が直ちに12月中の友達に伝わる。12月の風がまちびとの鼻先を撫でる。まちびとは気を取り直して12月の読書を再開する。読書が再開されたという情報が直ちに12月中の友達に伝わる。まちびとは12月のページの中を12月の落葉のように駆けて行く。243ページの7行目に進んだところで、まちびとの心が少しときめく。ときめいたという情報が12月中の友達に伝わる。ときめきの後でふと空腹を覚える。12月の空腹が、12月中の友達に伝わる。まちびとは12月の鍋の中で12月のお湯を沸かす。まちびとは12月の本の中で眠り、目覚め、食べ、恋をして、12月を忘れる。その1つ1つは、SNSと連動して、12月中の友達に伝えられた。まちびとはいつまでも本を返さない。12月の本を返さないという情報が、12月中の友達に伝わる。

 12月の街を12月のボールが転がってその勢いに翻弄されるように、まちびとたちは集められていった。12月の雪だるまが成長するように、まちびとたちは白い息を弾ませながら、12月の足元に集まって最初は12月の警戒心から、あるいは12月の好奇心から互いの訪れた方向を尋ね合ったのだった。
「住宅街からやってきました」
「どんな人が住んでいたのですか?」
「色んな人が住んでいました」
「私は遠いところからやってきました」
「どれくらい遠いところだったのですか?」
「この荷物を見てもらえばわかるでしょう」
 他愛もない会話とパス交換の中で、12月のまちびとたちのまとまりが解れていく。12月のボールはいつもまちびとたちの中心にいて、人々の心から12月の不安分子を取り払い、安らぎと落ち着きを与えながら、その結びつきを必然的な12月のまとまりとして見せていた。

「まとまったお金が入ったら?」
「見知らぬ古着屋に入ってみたいです」
「古い友人に会ってみたいです」
「私はトングを持って、好きなパンを選ぼうと思います」
「ああ、それはなんて素敵な選択でしょう!」
 12月のボールの丸い形が、丸まった肉体を想像させるためか、話の中心はどうしても食べることに向かっていった。不思議なのは、食べ物の話をしていても、完全に食べ物の中には納まり切らないということだった。12月の雪だるまの中から、時として3月のお人形や8月のゾンビが顔を出すように。
「肉どんぶりと魚どんぶりでは?」
「僕は肉どんぶりだね」
「例えばどんな?」
「牛どんぶりだね」
「他にはどんな?」
「豚どんぶりだね」

 まちびとの中には講師も交じっていて、小さな講座も開かれた。
第3回 シュートテクニック
「今回のテーマは囲まれながらシュートを打とう! です」
 12月の講師の周りをまちびとたちが取り囲んだ。その中心には12月のボール。
「私の生まれ育った家は四方を山に囲まれ、本当の夕日を見ることができませんでした」
「僕は朝日も夕日も見たい時に見れたな」
「私はいつも電車の中から夕日を眺めていたな」
「他にはどんな?」
「鳥どんぶりだね」
「さあ、先生を取り囲んでごらんなさい」
 12月のまちびとたちが12月の講師を囲み終えると、早速、講師は必殺のシュートを実演して見せた。けれども、その動作は囲まれ過ぎているため誰からも見えなかった。
「山をも砕くシュートです」
 12月のまちびとたちの隙間から、12月の講師の放ったシュートが力なく転がっていくのを、突然現れた12月の犬が追いかけていく。

「お惣菜屋さんで好きな惣菜を選ぶのもいいな」
「ああ、それも素敵な選択ね!」
「外国人だから甘く見られてね、梅干の代わりにトマトを置かれてしまったよ」
「それは酷いね」
「悪気はなかったんだけどね」
 12月の講師は12月の犬を追いかけて行った。
 12月のボールが消えてしまってから、まちびとたちの間にできた12月のまとまりは自然に消滅し、まちびとたちはそれぞれの自分の12月へと帰って行った。


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