眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

若者の復活

2020-10-02 04:01:00 | ナノノベル
「地球に帰れない?」
 事情ははっきりとは説明しにくいようだった。アナウンスは次の目的地へと私たちの意識を向けようと努めた。
 火星は常にウェルカムな星だ。そして、いずれは私たちが向かうべき場所ということはわかっていた。それでも私が地球ですごしてきた時間のことを思えば、少なくとも自分は無関係なのではと思っていた。帰らないという現実を簡単に割り切ることは難しい。置いてきた友、約束、絆があまりに多く感じられたからである。多くを歩き、学び、愛し、生きた。地球のことならば、どんなことでもわかるだろう。時の流れでさえ、コットンシャツのように肌で感じ取ることができる。今になってそれらを完全に手放すには、私は年を取りすぎたのではないか。

(まもなく火星に到着します)

 火星に来て1ヶ月が経つが、右も左もわからない。地球上で経験したどんな引っ越しとも異なる。何もかもが新しい。概念がまるで違うのだ。ここに来て私は生まれ変わったような気分だった。
「背筋が伸びましたね」
 気候のためか重力のためか、姿勢がよくなったのは本当だった。このところの私は毎日仕事探しに忙しく動き回っている。新しくやってきた者には労働の義務があるというのだ。

「150ですか……。僕がここに来たのもちょうどそれくらいだったかな」
 明日からでも来てほしいと店長は言った。
「よろしくお願いします!」
 火星では私くらいはまだまだ若手ということだ。

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