レインウェアを着て走っている時、早く降り出すことを願う俺がいる。防水キャップに重ねてヘルメット、スマホホルダーも完璧。備えたからには降ってほしい。そうでなければ暑いだけで馬鹿みたいだ。街を走るからには、何でもいいから鳴ってほしい。大げさなバッグを背負ってただ走っているのは空しくなってしまう。何でもいいから運びたい。せめて誰かのために。
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どこかのローソンが偶然に俺を呼んだ。誰かが大量の飲料を注文したらしい。2リットルのコーラだけでバッグはパンパンになった。何十本背負えば、俺の罪は消えてくれるのだろう。進む度にバランスが崩れそうだ。坂道に耐えられるか。突っ込んでくる逆走自転車を避けてふくらんだ瞬間、タクシーのクラクション。俺を抜いた後もずっと尾を引いている。もう無理か。元から無理ゲーだった。突然、肩の荷が下りたように軽くなる。星になったか。誰かが背中に字を書いたようでもあった。俺ははっとして振り返った。俺の後ろにパンダが乗っていた。
「降りて! 君も捕まっちゃう」
俺はまだ倫理的なものに縛られていた。
「大丈夫。前だけを見てて」
「君は?」
「僕はモノトーンだから見つからないよ」
「どうして助けてくれる?」
「好きだからさ。だからじっとしていられない。留まっていられるのは不死のものだけだからね。前を向いてる?」
「もうすぐ着きそうだ。コンビニからいたの?」
「いつだって君の背中にいるよ。思い出がいつも未来にあるようにね」
「ありがとう」
ドロップ先のマンションに着くとまた重たさが戻ってきた。
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一足先に乗り込んだ女が自分の階のボタンを押した。
(何階ですか?)
女が言い出すのを俺は待っていた。3秒が過ぎた。5秒過ぎ、10秒過ぎても静寂が続いていた。ほぼ一緒に乗り込んだのではなかったのか。もしやと思い、正面以外のあらゆる面を確認する。右にも、左にも、後ろにも、操作盤はない。見えていないのか……。俺は幽霊になったのか。
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