眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ホット・チキン・タウン

2022-02-23 02:33:00 | デリバリー・ストーリー
 覚え立ての猫間川筋はくねくねとして心地よかったが、風が強くてなぜか涙が出てくる。泣いてるみたいで嫌だ。せっかくの手袋を外して、人指し指で顔を拭う。

「……が……」
 鶴橋駅前信号待ち。駅前が狭い。
「……か?」
 構内奥から男の喚く声。意味不明。あるいは、ちゃんと聞けば筋が通っているのかも。誰も振り返らない。信号を待っているだけ。
「返事くらいしたれよ~」
 どこからともなくツッコミが入る。


 玉造筋。小さな交差点の角にピックアップ先の店はあった。わかりやすい店は好き。自転車を停めてお店に入る。店内に客はいない。きゅっと結んだ袋を抱え、マダムは待っていた。

「まあ、手袋しないと!」
 驚くように、責めるように、彼女は言った。
「寒いよ~」
 両肘を抱えながら続ける。外の寒さを知っているようだった。

「ああ、寒いですね。行ってきます」


 千日前通。今里筋からまた戻ってきた。
 鶴橋駅前は人が多くて道が狭い。車道の端で信号を待つ。待つだけの信号はやたら変わらない。

「手冷たくないの? 兄ちゃん」

 歩道から突然おじいさんが話しかけてきた。この街の人々は、他人の手に対して多大な関心を秘めているらしい。

「いや寒すぎて涙が出るから素手で拭いたいんですよ」

 僕はついありのままに答えてしまった。わかりにくいだろうに。
 信号など存在していないかのように追い越していく配達員。秒でも読まれているのか。

「いやごっつ風強いさかい平気なんか思ってなはは」

「冷たいっすねははは」

 青だ。


 チキンの店が鳴る。今日はチキンが多い。クリスマスか。
 疎開道路を少し下りたところ。小さな交差点の角に店の明かり。わかりやすい看板が目に入る。
 自転車を止めるや否やお店から女性スタッフが飛び出してきた。「*****」です。注文ナンバーを伝えて商品を受け取る。ほぼ自転車を降りることなくピックアップが完了する。まるでF1レースみたいだ。(逆パルコじゃないか!)

「ありがとうございます! 行ってきます」
 なんてホットな街だろう。
 ドロップ先は、足代1丁目?

コメント
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