寒い日には鬼のように着込んだ。鬼のようなニット帽、鬼のように長いマフラーを巻いて、鬼のようなブーツを履いていた。空が鬼のように高かった。吐く息は鬼のように白かった。鬼のように混んだカフェの前では鬼のような雪だるまが、道行く鬼のように着膨れした人を招き入れようとしていた。鬼のような青信号。街頭テレビジョンに映る鬼のような大臣。鬼のような棒読み。鬼のように足を止め、鬼のように聞き流す人々。
困った時には鬼を頼っていた。鬼は何にでも気さくに乗ってくれる。鬼は誰の心にもいる。だから、容易に共感を得ることもできるのだ。
鬼のような弾丸シュート。鬼のような横っ飛び。鬼のように積み上げられた靴下。鬼のようなバーゲンセール。鬼のような片想い。鬼のような賃金。鬼のようなブルー。鬼のように空いたフードコート。鬼のように破れたシャツを着た狼。鬼のように走るボールペン。鬼のような本能。鬼のような睡魔。鬼のようなタイピング。鬼のようなジャズ。耳についたら鬼のように離れない。鬼なしでは何も語れない。
それはもう好きなんじゃないの?
世話にはなっているけれど……
好きってことなんじゃない?
まさか好きなんて、はっはっはっはっはっは♪
そして門には鬼がやってきた。
(これは約束なのだ)
よく来たね。
「鬼は外! 鬼は外! 鬼は外!」
僕は疑うこともなく手に持っていた豆を投げつけた。
「いたたたたたたた!」
「ごめんね、何か。せっかく来てもらったのに」
「いえいえ、もう慣れっこだから」
何かよくできた人みたい。僕はなんて恩知らずなのだろう。
「鬼は外! 鬼は外!」(ごめんなさい。ごめんなさい)
「いたっ! いたっ! いーたたたたたたた!」
「えーい鬼は外! えーい鬼は外!」(ごめんなさい。ごめんなさい)
「いいんだよ。俺はアウトドアだからさ」
そう言って鬼のように去って行く。
やっぱり好きかも。