「今回は夜食と若者をテーマに持って参りました。20時以降の議員以外の夜食は是非これを控えていただきたい。特にポテトスナック、カップ麺、たこ焼き、ピッツァ、チャーハン、半チャンセット、またそれに伴うデリバリー等は、是非これを控えていただきたい。このように考えております。専門家の方からもそこは急所であるとご指摘がありました。
20時以降、議員大臣以外特に炭水化物、炭酸飲料、うすしお、コンソメ、のりしお、また過度の塩分を伴う夜食は是非これを控えていただきたい。そのように考えております。
若者の皆さん、10代、20代、30代、40代、50代、60代。若者の定義については現段階では明確には決まっておらぬと聞いております。そうした意味であらゆる知見を集約したところ、私はまだ若者という結論が出て参りました。若さは時に暴走するものです。
そこで夜食と若者に集中的に的を絞って、全国の記者さんとそこはフリーランスを含め密に連携を深めながら、その封じ込めを徹底的に考えて参りたい。人類が花の前に集まった象徴としての明細書が開かれるように、皆さんのご協力を、是非お願い申し上げたい。このように思います。そこで今回は夜食と若者にテーマを絞って、最善のタイミングで、これを適切に、20時以降……」
抑揚をつけながら、若者はテレビの前の聴衆に語りかけた。原稿をめくると文体が少し変化した。
「僕はこんな夢をみたよ。憔悴しきった彼女の顔がすぐ近くにあった。彼女は弱音しか吐かなかった。もうすべて駄目になったのよ。好きなことだけを見るように、繰り返し当たるように、僕は説得した。大丈夫だから」
原稿がすり替わっているに違いなかった。だけど、周りに誰も止める人はいなかった。むしろ聞き入っているようだ。(あるいは眠っているのだろうか)
「彼女は少しだけ表情を取り戻した。それから突然上を向いて動き始めた。僕は安心した。僕が考えるよりも彼女はずっと強いのだ。振り返らず彼女は上って行った。彼女が脱出し終えたところで扉が閉まった。もう開かない。扉はすぐに壁になったからだ。ここは侵入はできても出ることはできないの。外から彼女の声が聞こえた。僕の体は徐々にブロックに圧迫され始めていた。どこかにないのか? タオルやセーターの隙間から外の光が微かに見えていた。どうしてここに来たのか。記憶がなかった。彼女の絶望はすべて芝居だったのか。ならば僕は罠にかかったということなのか。もうどちらが月の方向かもわからなかった。本当に出口はないのだろうか。顔にまとわりつく古着。息が苦しい。誰かいるの? その時、別の声がした。先生? ここがわかるの」
そう言ってまた若者は原稿をめくる。
「議員大臣以外の夜食は、是非これを控えていだたきたい。そうして万全の体制で当たって参りたい。このように考えています。より一層の辛抱を最大限にお願いしたい。20時以降は必ず実現したい。そのためにあらゆる手段を躊躇なく講じて参る……」
あっ、戻ってきた!
おかえり、先生。
「そうして、ドラマチックに展開したい。このように思います。以上で私のお話を終わりにさせていただきたい」
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「以上もちまして本日の朗読会を終了とさせていただきます。なお、原稿の一部に想定外の差し替えがあったことを謹んでお詫び申し上げます」