太陽光発電シニア

太陽光発電一筋、40年をはるかに過ぎたが何時までも興味のつきない厄介なものに関わってしまった。

シャープのこと

2016-02-26 10:17:30 | 仕事に関すること

鴻海によるシャープ買収について、2月6日「アモルファス太陽電池の魔力と魅力」2月7日「“太陽光パネル事業を除いた”後は何処へ行く!」のブログに関連事項を記したが、朝刊トップ記事となり再び触れる。台湾については十数年前、アモルファス太陽電池のブームが起こり(半導体装置メーカーの活躍、暗躍もあったが)多くのアモルファス太陽電池メーカーがベンチャーとして誕生した。当時、関連のシンポジウムに参加したが当方の発表は結晶系であり、地味感は拭えず会場はアモルファスで大いに盛り上がった。ベンチャーの経営者は時代の寵児であった。しかし、アモルファス太陽電池にはStabler-Wronski効果と言ってダンぐリングボンド(未結合手)が増えて電子のライフタイムを短くして初期劣化(大きいものでは数年で数十パーセント劣化)が自然条件下で起こることが良く知られていた。常温や普通の自然条件下で物性が変化することは驚きであるが、各メーカーはこの劣化を抑える努力をしたが、軽減はできても根本的には解決しなかった(今でもそうだと思うが)。変換効率も思ったようには上げられず、やがて多くのベンチャーは破綻していった。まず、鴻海はこれらの事実を良く知っているということは頭に入れた上で、

アモルファス太陽電池の製造プロセス、構成材料は液晶の製造プロセス、材料と共通部分が多く、生産と言う点では一石二鳥が狙えることが一つ。

ターンキーベースの装置産業であり人件費は抑えられ、構成材料費が安いことから設備の償却さえ終われば原価力はある。しかも巨大な設備を導入し大量生産すれば一気に市場を席巻できる可能性がある。

問題はここから。まず一石二鳥はどちらの市場も健全に伸びていかないと共通部材調達や開発方向が互いに切り離せない不可分の依存関係にあり、共倒れのリスクがある。ターンキーによる製造プロセスは何処でも装置さえ入れれば作れることからライバルが現れるのは必然。それを凌ぐためには圧倒的巨大な設備を必要とする。思い起こせば30年くらい前、ほくさんという会社がベンチャーでバスオールを作り成功した勢いで結晶太陽電池の自動化ラインを導入した。当時は凄いと感心もしたが、一方で太陽電池の製造プロセスは工程の入れ替えや製造工程の諸条件を色々変えながら作っていた時代、一体工程の順序を変えたり装置の制御範囲を超えた条件が見つかった場合、この全自動の工程はどう対応するのだろうとも不思議に思った。

巨大な装置であればあるほど装置の入れ替えや条件の変更は難しい。堺の太陽電池工場の原価償却はほぼ終わっているとは思うが(装置代の借金はあるかも知れないが)最近では中国、台湾から結晶太陽電池をOEM供給して貰っていたくらいだから、装置を動かす魅力は無いのかも知れない(キャッシュフローなどの要因も否定しないが)。

何故、歴史的にもこのような難しいアモルファスに乗り出したのか。想像ではあるが、経営トップに事実が本当に伝わっていたのかという疑問である。サラリーマン社会で上層部に辛言直言は相当難しい。否定的、消極的ととられる可能性もあり聞く方も、つい甘言に耳を傾ける。勢い行けいけどんどんのYesマンに包囲され(自ら招いたとも言えるが)リスクを含めた客観性は損なわれる。最近のシャープにもやたら上職に気を使う人(係長は課長に課長は部長にと)を見掛けるようになったのは思い過ごしかも知れないし、それ自体は規律と言う点で良いことだとは思うのだが・・・。

これはどこの会社にもあることで、残された関西の某大手メーカーにも感じるが、社長、会長の動く所、露払いの如く重役が動き回り、そこまで気にする?と思うほどの気遣いに呆れたことがある。トップにその気は無くともおぞましい取り巻きがその雰囲気を作る会社はもう駄目である。私が長く務めた会社では日本人なら誰でも知っているカリスマ経営者が居た(今も存命だが)。年に何度かのイベントでテーブルに分かれて食事をすることがあった。各テーブルは知らない者同士が集まるのだが飲み食いが主でなく殆どが仕事に関することで盛り上がる。カリスマ経営者は各テーブルを回るが、時としてテーブルの輪の外で議論を聞いていることがある。こちらはカリスマに尻を向けたまま喋っていても注意はされない。気付いて慌てて場所を開けると何事も無かったように議論に入って来る。チリひとつ無いように露払いが気を使う会社では経営者にチリは見えないだろう。

アモルファスか化合物か単結晶か多結晶か、その選択は技術の優劣ではなくManagement(経営判断)の範疇にある。出てくるものは同じ電気であり、消費者は電気を求めているだけだ。経営の問題であっても、一括りに太陽電池は・・・と評価されることだけは避けたいところでもある。

「偶発債務3500億」?今頃?お見合いで結婚相手を決めた後で都合の悪い真実を伝えたら破断となってもう一方のお見合い相手にすり寄ろうと思えば相当条件を下げなければならない。私の太陽電池はシャープで生まれてカリスマの下で育った。あの太陽電池で有名なシャープで、と言われるのはプチ自慢経歴だったのに。もう本当に。