知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

郷原「組織の思考が止まるとき」を読む

2011-04-17 07:52:57 | 読書

 

原発事故に関する勝間さんとの対談を観て以来、読みたいと思っていた本です。

郷原さんは、「コンプライアンス」とは、法令遵守ではなく、社会の要請に応えること、であると主張されますが、全面的に賛成です。

コンプライアンス論が導入されたこと頃、会社法の中でコンプライアンスについて執筆した際に、いろいろな文献を調べましたが、当時も、今プライナンス=法令遵守、という考えはおかしいと思っていました。なぜなら、このように考えると、単に、法令を遵守すれば良いという発想になりがちであり、法令以外のルーには従う必要がないということになるからです。

しかし、郷原論は、その先を行っています。郷原論では、コンプライアンスを「社会の要請の応えること」ととらえることにより、コンプライアンスを法令遵守の呪縛から解き放っています(95ページの図1を参照)。したがって、「法令」と「社会の要請」が衝突するように見える場合には、企業は厳しい判断を迫られます。法令遵守は、法令を知って入れば、それを遵守するだけなので、企業の判断を求められる場面は少ないといえます。これに対し、「社会の要請に応える」ためには、まず、「社会の要請」を認識した上で、その重要性・適用場面を判断し、他方、「法令」についても、その立法趣旨を理解した上で、その重要性・適用場面を判断し、これらの認識・判断を踏まえた上で、「法令」と「社会の要請」が本当に衝突しているか否かを判断する必要があります。「法令」が社会の要請に裏付けられた適切なものである限り、「法令」と「社会の要請」が衝突しているようにみえても、それは、「みえる」だけであり、本当は衝突していませんから、この見極めができれば、それ以上の問題は生じません。これに対して、「法令」が社会の要請に裏付けられてない場合には、「社会の要請」が優先されるべきことになります。この結論は違法行為を勧めている訳ではありません。「法令」が社会の要請に裏付けられてない場合には、「法令」を限定解釈する、より上位の法規範(法令の目的条項、緊急避難・権利濫用等)に根拠を求めることにより、企業の行動について、「社会の要請」に応えつつ、「法令」にも違反しないものである、という説明が可能であり、このような説明を可能にする法律解釈を行うことが、法律家の役割であり、「法令」を「社会の要請」に合致するように改めることが立法の役割と思います。

次に、郷原先生は、コンプライアンスを「社会的要請に応えること」ととらえる場合には、センシティビティとコラボレーションが重要なキーワードであると述べられています(97ページ)。

センシティビティとは、社会の要請を敏感にとらえる、ということですから、コンプライアンスを「社会的要請に応えること」ととらえる場合には、当然に必要とされることです。

しかし、社会的要請は多様であるため、そのバランスを取るためには、組織内の共通認識が必要であり、そのために、(縦と横の)コラボレーションが必要になるとのことです。この点、私が、以前、所属した外資系の組織でも、コラボレーションは、意識的に実践されていたように思います。組織が大きくなればなるほど、コラボレーションの重要性は増していくと思われます。

また、郷原先生は、コンプライアンスの実践のため、「フルセット・コンプライアンス」という考え方を提唱されています(98ページ以下)。

その構成要素は以下の5つです。

第1が、企業としてどのように社会的要請に応えていくかという方針の明確化です。

第2が、方針を実現するための組織体制の構築です。

第3が、組織が実際に機能することです。

第4が、治療的コンプライアンスであり、

第5が、環境的コンプライアンスです。

治療的コンプライアンスとは、不祥事対応のことです(103ページ以下)。そのポイントは、事実調査、原因分析、再発防止、の3つです。これは、刑事裁判の目的を想起させるものであり、元検察官であるが故の説得力ある主張となっています。

また、郷原先生は、日本の違法行為の多くは、「カビ型」であり、個人の問題ではなく、環境が問題であることが多いとされます。そのため、環境面の整備が重要であり、それが、環境的コンプライアンスです。

その他、本書では、「根本から考えること」、「本質を考えること」の重要性が随所に指摘されています。この点も、私が常に指摘しているポイントであり、大賛成です。 

最終章は、「法令遵守」から脱却して「ルールを作る」、「ルールを活かす」、「ルールを改める」というアプローチを採用すべきことが説かれています。「法令遵守」から「ルールの創造」へ、は、本書のサブタイトルでもあり、玩味熟読すべきところです。

 

組織の思考が止まるとき ‐「法令遵守」から「ルールの創造」へ
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