今の部長がはらはらしている。
俺と常務はこんな風にしか話さない。
はたから見ていると まるで言うことを聞かない猟犬と それでも気長に付き合ってくれる猟師のようだ。
野良犬の俺に 唯一言葉が通じる相手なのだ。
常務直々の指令は 何年振りだろうか?
それだけ大きな仕事のようだ。
「先月の調査ねえ 本当は私の依頼なんですよ」
唐突に常務どのが話し出した。
俺は何のことやら分からない。
どうやら普通の調査に紛れて ややこしい件も片付けたらしいのだが 部分部分のヘルプで しかも数日のことなので 俺のような末端のものには話が繋がらないのだ。
ここがこの会社の怖い所で 知らない間に 人の恨みを買っていても 気がつかないのだ。
自己防衛は 慎重にやらなければならない。
「そこでだ 華岡君…」
おっと 名前で呼ばれた時は かなり難しい話だ。
俺は緊張して 唾を飲み込んだ。