ゆっくりかえろう

散歩と料理

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餓鬼鎮め 2/4

2011-09-27 | フィクション

「カウンターのカレー店でやってみましょう」
 いよいよ実地が始まりました

「いいですか あなたは出来るだけ真ん中あたりの 目立つ席に座ってください」
「餓鬼憑きよりあなたが先に座っているところでやってみます」
 てきぱきと指示が飛びます

「あなたが座ると 餓鬼憑きはすぐに現れます」

僕は反論します
「いくらなんでもすぐはないでしょう?」
「確実に来る確証さえないと思います」
センセイはニヤリと笑います

「あなたなら大丈夫」

センセイは小声で言いました
「ほらもうあそこに・・」
見るとどことなく挙動不審の人が入ってきて 席を物色しています
なぜ挙動不審にみえたかといいますと 普通の客は空き席を目で追うのに
この人は空き席ではなく 座っている人の顔を物色しているからです

「判りましたか 刑事はスリを見つけるのに不審者を視線で判断します」
「人のカバンやポケットを見ているヤツをみて スリと判断する 痴漢を判断するのだってそう」
「刑事は女性のバストやヒップばかり見ている男に目をつけるのです」
「目は心の窓 何を考えているかは 何を見つめているかで判るのです」
なるほどそのとおりだなと思いました

「不審者はカウンターに座りたがります」
「彼らにとって特等席だからです」

センセイは勝ち誇ったようにいうのでした
ははは そんなところで 威張らなくてもいいのに
ちょっと子供じみた面が見えて 僕はほっとします

不審者は難しい顔をして散々迷った挙句 定番のカレーを注文します
それからコップの水をひとすすりしてから おもむろに周りに顔を向け
カウンターの端から端まで 眺め回し 目的のターゲットを見つけます

つまりこの僕・・・。。(かなり嫌なんですけど・・・)
僕のほうは気づかぬふりをしてカレーを食べます

向かいに座った不審者はこの時点では 僕にばれてないと思って ジロジロ見放題
かなり油断しています
でもこの時点ではまだ泳がせます

彼は左肘をカウンターテーブルにつき その上にあごを乗せます その姿勢のまま
前の僕を眺めます
こうすると首の動きが自由になって 視線を定めやすいからです

 僕と目が合いそうになると 慌てて目を天井に逸らします

 その後もなんども同じ事を繰り返します
 想像してみてください  このやりとりを
 端で見てたら異様というか 滑稽です
 当人の私でさえ 面白くて笑ってしまいそうですから

 そして彼が目を外している間に デジカメを取り出して 彼を撮影してしまうのです

 昔からカメラで写されると 魂を奪われるといわれています

 シャッターを切ると 餓鬼憑きの人からは 霧のような煙のようなものが 目から出て
 カメラに吸い込まれていきます
 煙を吸われた人は 意識を失ってぶっ倒れます

 僕の隣に座っていたセンセイは小声でいいました

 「予定終了 うまいうまい 遠田さんは覚えがいいですね 天才かも」
 センセイはご機嫌です

 「なんの天才ですか!」

 「お言葉ですけど 誉めてもらっても ちっとも嬉しくないですからね」
 僕はちょっとむくれています こんな仕事 親にいえやしない

 「これで食ってければいいですが センセイの助手でいる間は喰えても
 そうでなきゃ仕事として成立しません」

 「まあまあ この仕事は世のため人のためになる仕事です」
 「それに 最初は気の弱い君を心配していましたが 結構強くなりましたね」
 「つまり君のためにもなってるんですよ」

 「きっと餓鬼憑きも平気になって やつらを撃退できるようになるかも」
 「運勢もきっと良くなります」
 センセイは高らかに笑うのでした

 僕はいつも怖くて必死でやってるというのに・・・・
 馴れるはずないよ 


 テーブルの下で気絶している人は すぐ目を覚ましますから
 放っておいても大丈夫でしょう  
 勘定を済ませて店を出ます

 センセイのクルマで 事務所兼 自宅へ向かいます
 今日はこの先の作業を見せてもらう約束です

 ここからが本当の「餓鬼鎮め」なんです