ゆっくりかえろう

散歩と料理

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憑物 2/6

2011-09-16 | フィクション

腹が立つので朝食は本当に抜きにした
妻への当てつけのつもりだったが
そんなことをしても 誰も関心がないのだから
腹が減るだけの無意味な行為だった


昼食は会社の外でとるつもりで 部下や同僚や
上司を誘ってみたが ことごとく断られた

普通に仕事の話をしていても 昼食の話になると
みんなとたんにあたふたとどこかへ行ってしまう

俺はこんなに嫌われていたのか
昨日、妻が言っていたように 俺との食事はそんなに嫌なのか

みんな俺を避けているのか

情けないが 俺には全く自覚がない
今日は一人で 会社の前の牛丼屋に入る

一緒に食べる人がいないと物足りないし寂しいが
ここならお一人さまでも落ち着いて食事がとれる


カウンター席に着くと周りの客が気になる
向かいの客 左隣の客と見渡して それから右の客を見ると
大人しそうな行儀の良い 俺より4つくらい年下と思われるサラリーマン
見るからに美味しそうに牛丼を食べる姿勢が良い

なぜか他の人より強烈に気になる存在だ
覗きたくて堪らなくなる
食べかけのものを横取りしたくなる

俺は調子に乗って 相手を気にせずじろじろと見た
さすがに隣の客は気がついて 嫌な顔をする
いいじゃないかちょっとくらい 減るもんじゃなし

みんな大げさに嫌がりすぎる
みんな優しくない 俺に冷たい

今日は不満がたまっているのか かなり覗きたい気分だ
隣の人が睨むと視線をはずし 食べ始めるとまた覗く
まるで鬼ごっこだ
しかし覗きたい欲望は止まらない
しまいには 隣の人は手を止めて食べるのを止めてしまう
俺は何食わぬ顔で 斜め上を向いて知らんフリを決め込む 


・・・と二つ隣りから 不意に俺に向かってカメラが向けられる
それはコンパクトデジカメだった
俺はなんだろうとカメラのほうを見た

その瞬間フラッシュが焚かれ 目がくらんだ

とたんに全身が脱力していくのを感じる
目の前が真っ白になる

自分の目から 口から 鼻から 黒い煙のようなものが出て カメラに吸い込まれていく
俺の身体から確実になにか活きた「気」のようなものが出て行った

「気」に引っ張られて 俺の精気も一緒に出て行きそうだが
目も口も鼻も手で押さえ 必死に引き止めた

気分が悪くなり座っているのが辛くなり 目の前が暗くなり
足の力が抜け 腰が抜け 全身の力が抜けて 崩れ落ちるように
床に倒れこんだ

俺は意識を失いつつある
誰かが俺をゆすったりたたいたり 起こそうとしたりしたが
金縛りになったように 全身は動かなくなり
遠のく意識の中で 俺は死ぬのか 死ぬってこういう気分なのかと
他人事のようにぼんやりと思った


俺が何をしたというんだ
遠のく意識の中でまた今日何度も繰り返した愚痴をいった 

「見るくらいいいじゃないか 減るもんじゃなし」