Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダンスは愉し 17

2019-02-12 11:23:38 | 日記

 鈴舞さんは住宅街を歩きながら振り返って大学の方向を見ました。駅までの道はほぼ1直線なので、前に姿が見えない幼馴染の大ちゃんが、もしかすると後ろにいるのではないか、と思ったのです。が、やはり大ちゃんは後ろにも姿が有りませんでした。

 『用が無い時は、やたらと目に付くのに。』

捜すといないんだから、と、鈴舞さんは不満げにぷっ!と頬を膨らませました。本当に、今日のこの日は電車の駅にも、駅の横のパン屋さんにも、ホームにも、どこにも彼の姿は無いのでした。住まいの街の周遊バスに腰を据える頃には、鈴舞さんはもう大ちゃんを探す事には飽きて、車窓からぼんやり風景を眺めていました。

 が、家の近くのバス停で降りると、如何にも鈴舞さんを待ち構えるかのように、そこにちゃんと大ちゃんの姿が在るではありませんか、鈴舞さんは驚きました。

「あれ、大ちゃん。」

今から大学なの?と尋ねる鈴舞さんに、そうだよとにこやかに彼は答えると、彼女と入れ替わりに、今鈴舞さんが乗って来たばかりのバスに乗り込み、そのまますれ違いで行ってしまいました。これでは折角彼女が大ちゃんに会えても、何の話のしようも無いという物でした。

『みどりさんの話はこの次ね。』

鈴舞さんは思いました。別に急ぐ話じゃ無いし、大ちゃんとは四六時中顔を合わせるんだから。そう鈴舞さんは考えました。近所の仲のよいお兄さんが、友達とはいっても誰かの彼氏になってしまい、自分からは遠い存在になって仕舞うのが、鈴舞さんにとってはやはり残念で、少しというよりはかなり物惜しい気持がしたのは確かでした。