お前さんはいい嫁だったよ、私の母にも姉さん達やその子供達、弟や妹達にもよく仕えてくれた。如才ないタイプというものだったのに、如何して息子達はお前さんに似なかったのかねぇ…。皆私に似るものだから、あんな不義理な子に育ってしまって。申し訳ないねぇ。お前さんには本当に感謝しているんだよ。私はね。母さんもいなくなる前に言っていたんだが、お前には今迄黙っていたんだ。ありがとうって感謝していたよ。祖父は何だかしんみりとしてきました。亡くなった自分の母を思い出していました。
どの嫁もお前には従ってくれないんだろう。そう気の毒そうに話す夫に、時代が違うんですよと、妻は慰めるように言うのでした。
「お父さん、育った時代が違うんですよ、私達の時とは。」
2人は共に、明治生まれなのでした。
昭和の前が大正、大正の前が明治時代ですね。それは現在では近代と呼ばれるものなのでした。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは買い物に行ってくるから。」
そう言って祖父母達は出かけて行ってしまいました。
蛍さんが2人の会話を聞いていたところでは、2人は地元の百貨店に出かけたようでした。「何時までもこんな不愉快な事に付き合っていないで、お前さんの晴れ着でも買ってこよう。」そう祖父は言い出し、祖母もあらと喜んでええ、ええと同意すると、気分転換にと2人は連れだって着の身着のままで家から出て行ってしまったのでした。家には蛍さんだけが残りました。