空中楼閣―Talking Dream―

好きなものを徒然なるままに。

生島治郎『総統奪取』(角川文庫)

2009-04-26 21:42:43 | 読書
ようやく入手したシリーズ第三巻。

第一巻『黄土の奔流』(1965)と古本屋で邂逅したのが、4年前。
第二巻『夢なきものの掟』(1976)を大学祭の古本市で発掘したのが、1年半前か。
存在を知ったのは高校生の頃だから、長い時間をかけて
このシリーズに焦がれ、読みつないでいる気がする。

ちなみにこの『総統奪取』は、1990年の作品。
作中での年代も、『黄土』では1923年だったのが、もう1937年になってるし。
あ、今回はついにネット古本屋に頼りました。
「偶然の出会い」(なぜかあったこだわり)に賭ける余裕も機会もなくなったので。

さて、「シリーズ」と言いつつ。
1巻1巻がきれいに完結しているので、
「続きが気になって夜も眠れない」なんてことがないのは幸いだと思う。
前作で青幣・日本軍双方を完全に敵に回して(殺しまくったしなあ…)
上海を出た紅&葉がどうなったか、は一応気になってはいたんだが、
読み始めたらいきなり10年近く経過していたのでやや面食らった。

で、この「総統奪取」は、前2作と比べるとかなり短い。
「もしも、西安事件の裏側に紅&葉が絡んでいたら」というか、
「あの紅&葉が次に活躍するなら、もっと大きな舞台でなくては」というか、
「西安事件に絡ませるなら、あの2人ぐらいの強さがなきゃ無理だよね」というか、
何か、そういうファンサービスの雰囲気を感じる。
解説にもあったけど、会話劇がメインでアクション少なめなのが確かに物足りない。
読者側としては、紅&葉にも活躍してほしいけど、歴史的事件の描写ももっとやってほしい、
というジレンマもあったりする。

いや、でも、十分面白かったんだけれども。
「夢」ほどの高揚感はなかった。
いや、あの高揚感は何だったんだ、本当に。
(逆にそっちが謎なんだけどね)

それにしても、紅真吾も葉宗明も強すぎ(笑)
そりゃあ、蒋介石も信頼するよね。周りの人間と強さレベルが違いすぎるわ。
「黄土」の時はもうちょっと現実味のある強さだった気がする。
「夢」でタガが外れたな。(ラストの大量虐殺のときに無敵すぎたからな)
その強さが、爽快感に繋がってるのは確かなんだけど。
カラッと乾いた感じは相変わらず。
やっぱり一気に読み終えてしまいました。


さて。
もう一つ気になっていたのは、紅&葉の関係ですが。(腐った視点)
「黄土」のラストでは同じ女を巡って険悪だったのに、
「夢」の冒頭では「友人」「何年も同居してた」という関係に
なってたんで、驚きましたよ(笑)
周りからも「まるで恋人みたいな言い方」とか突っ込まれてるし。
とどめがラストの告白合戦だし。

それが10年経つとどうなってるのか…と、かなり気になってたんですが、
だいぶ落ち着いた関係になってましたね。
適度な距離感、でも言葉なしで通じ合う、みたいな。
密かに葉の「女がいましてね」発言が気になってしゃーないのですが。

結論:「夢なきもの」だけ別格。萌えも燃えも(笑)

相変わらず、女性キャラには全く感情移入できない。
ってか、今回の柳芳彩と、『黄土』の林朱芳、それに『死ぬときは独り』のルイゼが、
かぶるんだよね。同タイプというか。
全員かっこいい系なのはいいんだけど、男に対する接し方も似ててな。
それがどうも好みじゃない。というか、彼女らと好みが合わない(笑)
そういう点でも、女性不在で、葉が完全にヒロインだった(笑)『夢』が好きなのかも(爆)


シリーズでは、2001年の『上海カサブランカ』を残すのみだけど、
これ、文庫化されてないんだよね。
どうしたもんか…。

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