じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

干刈あがた「ウホッホ探検隊」

2024-04-08 19:57:50 | Weblog

★ 新学期が始まった。クラス替えがあったり、新しい担任の先生に変わったりと、子どもたちにもストレスがたまる時期だ。スクールカーストなどと嫌な言葉がはびこる時代。最初の1週間が子どもたちにとっても勝負の時期ようだ。

★ さて今日は、干刈あがたさんの「ウホッホ探検隊」(福武文庫)を読んだ。1987年4月4月に読了の記述があるから読むのは2度目だ。

★ 理由はよくわからないが(たぶん夫の不倫が原因なのだろうが)、夫婦が別れることになった。夫婦には小二人の小学生の息子がいる。母親が二人を引き取ることになったが、微妙な年ごろだから、夫婦の問題をどう伝えるか悩む母親。

★ 子どもたちは、父と母の微妙な空気を感じていら立つこともあるが、子どもながらに親を思いやっている様子。

★ 中盤までは母親が長男に「君」と語る文体で進む。二人称の文体は当時とても新鮮だった記憶がある。

★ 終盤は、母親と次男との関係が描かれている。まだまだ子どもでありながら、それでいて一人の男として成長しようとする次男の姿。それを見守る母親の人間としての覚悟と成長が印象的だった。

★ 1984年芥川賞候補作。干刈あがたさんは若くして亡くなられたので残念だ。

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福永武彦「草の花」

2024-04-07 17:30:17 | Weblog

★ 春休み最後の日曜日。今日も好天に恵まれ、桜は満開だ。

★ 福永武彦さんの「草の花」(新潮文庫)を読んだ。物語は終戦からそれほど遠くないある冬から始まる。舞台は郊外のサナトリウムで、主人公(語り手)は他の患者と共に結核の療養をしている。彼はそこで汐見茂思という同じ年頃の男性と出会う。

★ 汐見は病状が重く、友人からの自重を勧める声に迷うこともなく、当時まだ危険であった片肺の全摘手術を希望する。手術は始め順調に進んでいたが、やがて血圧が低下し、亡くなってしまう。

★ 主人公は汐見から2冊のノートを託されていた。それを読みながら、彼の死が術中死なのか、それとも彼が自ら望んでの体の良い自殺だったのか思いを巡らす。

★ 2冊のノートには汐見が経験した2つの失恋が描かれていた。

★ 理知的で純粋であるがゆえに苦悩も大きかったようだ。神の愛か地上の愛か。信仰に篤くない私などには理解できない領域だ。ただ文章が巧いので思わず物語に引き込まれる。

★ この物語は作家自身の体験が下敷きになった私小説だという。作家は主人公に死を与えることによって、自らは生きることができたのではないかと思った。

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川西政明「『死霊』から『キッチン』へ」

2024-04-06 21:56:17 | Weblog

★ 今日は授業が2コマ(2人)しかなく、のんびりした日だった。あまりにのんびりしすぎて呆けてしまうのではと心配になる。

★ 今日の収穫は、川西政明さんの「『死霊』から『キッチン』へ」(講談社現代新書)を読んだこと。「日本文学の戦後50年」と副題にあるように、1945年から1995年までの文学界の変遷を具体的な作家、作品を上げながら解説している。著者の川西政明さんは河出書房新社の編集者から後に文芸評論家になられた方。

★ 戦後直後の作品。戦争でまさに死と直面した作家が描いた世界は凄みがある。武田泰淳の「ひかりごけ」や梅崎春生の「幻花」、椎名麟三の「深夜の酒宴」など読んでみたい。

★ 三島由紀夫の「金閣寺」や遠藤周作の「沈黙」、大江健三郎の「飼育」などはすでに読んでいるので、解説を読んで「なるほどなぁ」と思った。

★ 私が安倍公房の「壁」を読んだのは中学生時代。たまたま出会ったのだが、今から思えばすごい作品が私の読書の原点だ。「高橋和巳の死と共に70年代は終わった」と言われるが、高橋和巳の作品は好きだなぁ。「悲の器」「憂鬱なる党派」「邪宗門」は読んだ。「邪宗門」は大学生時代に読んだが、良かった。「三島由紀夫の殉教の美学、高橋和巳の破滅の美学」という解説に納得。

★ 第6章「春樹、龍、ばななから始まる」は、まさに私の愛する時代だ。ここで紹介されている村上龍の「限りなく透明に近いブルー」、村上春樹の「風の歌を聴け」、川西蘭「春一番が吹くまで」、田中康夫「なんとなくクリスタル。、中沢けい「海を感じる時」、干刈あがた「ウホッホ探検隊」、島田雅彦「優しいサヨクのための嬉遊曲」、山田詠美「ベッドタイムアイズ」、池澤夏樹「スティル・ライフ」、吉本ばなな「キッチン」。みんな読んだなぁ。

★ 村上春樹の「ノルウェーの森」と古井由吉の「杳子」を対比しているところは、なるほどなぁと思った。

★ 本書が書かれてから既に30年近くがたつ。その後の文学界はどう変わっていったのか、興味がそそられる。

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村上春樹「ねじまき鳥と火曜日の女たち」

2024-04-05 14:26:17 | Weblog

★ 数年前、近所にできたパン屋のパンが最近とてもおいしくなった。焼きカレーパンやメロンパンがよく売れているそうだが、私は卵とレタス&ハムのサンドイッチが好きだ。おいしいパンは外皮(パンの耳)までおいしい。いや、食パンなどは外皮が一番おいしい。マーガリンや何もつけずに十分に味わえる。

★ パンがおいしかったので、何かパンがらみの作品はないかと本棚をあさる。群ようこさんの「パンとスープとネコ日和」(角川春樹事務所)、木皿泉さんの「昨夜のカレー、明日のパン」(河出文庫)が目についたが、どちらもすでに読んでいる。

★ 更に探していると、村上春樹さんの「パン屋再襲撃」(文春文庫)を見つけた。直接パンとは何の関係もないが、その中から「ねじまき鳥と火曜日の女たち」を読んだ。

★ 主人公の男性は法律事務所に勤めていたが、何かしっくりこなくって退職。目下失業3月目。妻がバリバリのキャリアウーマンなので生活には困らない。形ばかりの就活はしているが、だんだん主夫業が身についてきた。そんな彼のある1日が描かれている。

★ 白昼見知らぬ女性からかかってきたセクシャルな電話や失踪したネコを探すうちに知り合った女子高生など、日常の中にも奇妙な出会いがあり、それはそれでスリリングだ。

★ とはいえ、この夫婦関係。どうも亀裂が芽生え始めているようだ。男性はどこで道を間違ったのかと思いめぐらすシーン。ちょっとしたズレが大きな結果の差をもたらす。ここでもバタフライ・エフェクトを思い起こした。

☆ 春期講座終了。この週末は新学期の準備だ。

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加藤幸子「雪売り屋」

2024-04-04 20:56:35 | Weblog

★ 2011年の大学入試センター試験に加藤幸子さんの「海辺暮らし」が出題されていた。長年干潟で暮らすおばあさん。工場が流す排水で干潟が汚染され、おばあさんは役所から立ち退きを迫られる話だった。

★ 今日は、加藤幸子さんの「自然連禱」(未知谷)から「雪売り屋」を読んだ。

★ ある女性、二人の娘と夫の4人暮らしのようだ。彼女がお気に入りの風呂吹き大根を煮ていると、聞き慣れる御用聞きがやって来た。話を聞くと「雪売り屋」だという。日本各地はもとより世界各地の雪を取り揃えているとのこと。

★ あまりにも怪しいので追い返そうとしたが、次女が興味を持ったらしく、やむなく「サッポロ雪瓶」を買うことに。やがて食卓に飾られた雪瓶。雪は規則正しく溶け、溶けた分だけ空間ができる。さながら雪時計だという。

★ それにしても怪しい商売。騙されたに違いないと思ったのだが。

★ 詩的な文章、そして自然への愛を感じる作品だった。

☆ 春期講座もあと1日を残すのみ。いよいよ新学期が始まる。

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鈴木健二「気くばりのすすめ」

2024-04-03 16:05:47 | Weblog

★ 元NHKアナウンサー、鈴木健二さんが老衰のため亡くなられたという。

★ 鈴木さんと言えば「クイズ面白ゼミナール」の司会や「紅白歌合戦」で、引退する都はるみさんにアンコールの交渉をした「私に1分間時間をください。歌えますか」というシーンが思い出深い。

★ 「クイズ面白ゼミナール」は、仮説実験授業の要素を取り入れ、当時人気があった。

★ 今日は、鈴木健二さんの「気配りのすすめ」(講談社文庫)を読み返した。400万部を超える大ベストセラー。(とはいえ、その印税の83%は税務署にお届けした。と「文庫本刊行に当たって」で告白されている)

★ 1982年発行(文庫版は1985年、昭和60年初版)の著書なので、令和の視点から見ると、例えば父親らしさや母親らしさなど少々ステレオタイプであるように感じる。時代は急速に多様化が進んでいる。

★ とはいえ、本書は戦前、戦中、戦後の高度成長期を生きた著者が、変わりゆく社会や人間関係の中で、それでも変わらないもの、本質的な価値を見極めようとしている。具体的には、しっかり挨拶をすること、聞き上手になること、人のやらないことにチャレンジすること、自分にしかないもの、自分に与えられた才能を生かすことなどが説かれている。

★ 気くばりとは、要は相手の視点にたってモノを考えること、そして先を読んで行動することかなと思った。

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菊池寛「マスク」

2024-04-02 19:57:49 | Weblog

★ 春期講座7日目。残るはあと3日。ここ2日間は晴天が続き、どうやら明日は大荒れになるらしい。これを機会に桜の開花のきっかけになるかも。今年はちょうど入学シーズンに満開になりそうだ。

★ 菊池寛の「マスク」(青空文庫)を読んだ。志賀直哉が「流行感冒」を書いた同じ頃の話か。

★ 主人公の男性、外見は健康そうだが内臓は弱い。特に心肺が弱っているらしく、ちょっと運動をするだけで息切れがする。医者に診てもらったところ、差し当たっての治療は脂肪分が多い食品を避け、あっさりした野菜を食べればよいとのこと。食をこよなく愛する彼には実に過酷なアドバイスだ。

★ 時に流感が大流行。人々がマスクを装着し、彼もまたマスク、手洗い、うがいを励行する。

★ 季節が温かくなり流行が下火になるとマスクをする人々が減ってきた。そうした人々を横目に彼はマスクを続けていたが、さすがに初夏が近づくと煩わしくなってきた。

★ マスクを外し野球観戦に足を運んだが、そこで相変わらずマスクを装着している青年を目撃する。その姿を見て、何かしら不快感を覚えた主人公。頑なにマスクをつける青年の勇気に自分の弱さを感じてしまったという。

★ 数年前のコロナ・パニックが嘘のような毎日。マスクをする人もかなり減った。特に子どもたちはほとんどマスクをしていない。かつてはマスクをしていないと何か罪悪感を感じたが、そのうち、マスクをすることに違和感を感じるようになるのだろう。

★ これも集団圧力か。心理学に認知的不協和理論というのがあるという。自己の中に矛盾する2つの認知が現れた時、その不快感から免れるために体よく理屈をつけひとまずの安心を得るということらしい。マスクをつけるか否か。この迷いにも当てはまるかも知れない。

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小池真理子「玉虫と十一の掌篇小説」から

2024-04-01 15:39:52 | Weblog

★ 新年度が始まった。コロナ禍が一段落し、学校では何年かぶりに離任式が行われた。大学や企業では入学式や入社式が行われたようだ。

★ 受験が終わり、この週末は嘘のようにのんびりした。のんびりしすぎて、生活リズムが狂い気味。折込チラシを新聞販売所に持ち込み、映画「キングスマン ファースト・エージェント」を観て、あとはだらだらと過ごした。

★ NHKの「笑わない数学」から「カオス理論」の回を観て、三体問題とはこういうことなのかと思ったりした。

★ 暇になると読書も滞り気味になる。忙しい時の方が読み進めるのが不思議だ。小池真理子さんの「玉虫と十一の掌篇小説」(新潮文庫)から「声」と「いのち滴る」を読んだ。

★ 「声」は、男が、容姿は醜いが美しい声を持つ女を監禁する話。籠の中の鳥のように。

★ 「いのち滴る」は、ある女性の業の深さを感じる話だった。女性の両親は彼女が幼い頃に離婚。それぞれが新しい家庭をもった。父親が再婚した相手には幼い男の子がおり、女性にとっては義理の弟だ。母親は再婚した男と新しい事業を始めるとかで外国へと旅立ち、女性とは疎遠になっている。

★ 女性は、ある男の「子」を身ごもるが、この男に勤務先の社長の娘との縁談が持ち上がり、女と諍いが絶えなくなる。ある夜、男は女性と言い争った後、交通事故で死亡する。女性はショックからか流産する。

★ 女性は体調が戻らず悶々と日々を送っていた。そんな折、ふと、疎遠だった父親から電話があり、女性は父親が経営する旅館に身を寄せることになる。そこで成長した義弟と再会する、という話。

★ ある出来事をきっかけに、女性は再び活力を取り戻す。

★ 人生、その気さえあれば何度でもやり直せる。恵まれない環境のせいにして愚痴って日々を過ごすか、新たな一歩を踏み出すか。カオス理論のように、最初のちょっとしたズレが結果の大きな違いに至る。まさにバタフライエフェクトだ。そんなことを感じた。

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