じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

髙樹のぶ子「氷炎」

2021-04-18 22:54:26 | Weblog
★ 久々に恋愛小説。小説中の小説と言う感じだ。髙樹のぶ子さんの「氷炎」(講談社)を読んだ。

★ 20代の爆発するような恋もあれば、40代のじわじわっと火がついて燃え上がったらもうどうしようもなくなる恋もある。40代の恋は少々危険だ。

★ 松戸光介は京都理科大(繊維学科があると言うから、モデルはあの大学だ)の教授である。この大学に佐藤氷見子という女性が赴任してくる。かつて学生時代に交際し、光介は氷見子に結婚を申し込んだが、研究を優先した氷見子に断られた過去がある。それから20年。それぞれに家庭をもち、子どもも生まれている。

★ 20年ぶりに近づいた二人。最初は同僚として家族ぐるみの交際であったが、業と言おうか、縁と言おうか、焼けぼっくいに火がついてしまった。すでに40歳の峠を越えた二人。肉体の衰えは致し方ないが、お互いに年輪を重ねた分だけその情愛は過激だ。京都の風景を織り込みながら二人の禁断の恋は進行する。

★ ドキドキするような興奮、過激ではあるがドぎついいやらしさは感じさせない。これは作者の筆の技と言おうか。

★ かつての恋仲と言っても、今はそれぞれに家庭をもち、情事を重ねることは不倫と言える。その罰が当たったわけではないけれど、仲良しになったお互いの娘が事故に巻き込まれる。そこから、2つの家庭は破局へと向かう。

★ 最初は他人の恋沙汰など、どうでも良いような感じで読んでいたが、このあたりから、作品にグイグイ引き込まれる。

★ ドラマ仕立てのナレーションがありがたい。エンディングも余韻が残る。恋とは実に危険な冒険だ。
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悠木シュン「スマートクロニクル」

2021-04-18 11:27:09 | Weblog
★ 悠木シュンさんの「スマート泥棒」(双葉文庫)から「スマートクロニクル」を読んだ。第35回(2013年)小説推理新人賞受賞作だという。時代を感じさせる番組や人物が実名でふんだんに盛り込まれ、面白かった。

★ 物語は1本の電話から始まる。どうやら警察官らしい。「主人が飲酒運転でひき逃げ事故を起こした」とか。それで示談金が200万円とか。そのあと延々と電話を受けた女性の一人語りが続く。

★ 転々と転校を重ねた少女時代。いじめにあったが先輩(番長)と付き合い始めてから、立場が一変したこと。私に惚れた先輩が私の想いをどう受け取ったか、犯罪を犯し、それきりになったこと。その後、IT関係の社長と付き合い(ドラえもんのような人だったとか)、プロポーズまでされたが、親に反対され断ったこと。結局、公務員と結婚して家庭におさまったことなど。


★ 生徒会長選挙のときの先輩のパフォーマンスは参考になった。機会があれば(政治家や教祖になれば)使わせてもらおう。「自由って、手に入れた瞬間、自由じゃなくなる」(17頁)っていうのは「なるほどなぁ」と感心した。

★ 落ちが読めるのと、後半やや失速気味だったが、とにかく中盤まではとても面白かった。

★ 「ルパン三世 カリオストロの城」の名セリフ、このセリフを考えた人は「ヤッター」と思っただろうね。
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蒼井上鷹「キリング・タイム」

2021-04-17 10:08:15 | Weblog
★ 雨の土曜日。変異株の前に「重点措置」の効果は見られず、早晩「緊急事態宣言」発出の様相だ。政府の腰が重いのは、オリンピックへの影響と経済への影響を懸念してと新聞は書いている。首都圏から見て、大阪及び関西圏は「対岸の火事」って感じもあるのかな。次期総選挙を意識して「維新」いじめとか。

★ しかし、こうしている間にも感染は拡大し、ゴールデンウィークを挟んで、首都圏も悲惨な状況になっているような予感がする。温かくなれば感染力が落ちるものと思っていたが甘かったようだ。ロック・ダウンも現実味を帯びてきた。また買いだめに走るのか。杞憂に終わればよいが。

★ さて今日は、蒼井上鷹さんの「九杯目には早すぎる」(双葉文庫)から「キリング・タイム」を読んだ。第26回(2004年)小説推理新人賞受賞作。

★ 会社の上司と部下の話。しょっぱなから衝撃的な展開。上司が部下を階段から突き落とすのだ。そして、物語は数時間前にさかのぼる。

★ 話者は部下。デートの約束があるというのに、評判のよくない上司と遭遇してしまった。そして一緒にビールを飲む羽目に。上司は半額タイムのビールをがぶ飲みしながら、最近命を狙われている気がするという。上司に話を合わせる部下の会話と心の声の落差が面白い。部下は部下で秘密を抱えているのだ。

★ 誰が加害者で誰が被害者なのか。とんだ「キリング・タイム(時間つぶし)」になったようだ。

★ 続けて表題作の「九杯目には早すぎる」を読んだ。数ページの掌編だが、かつての名作のセリフがうまく引用されて面白い。ミステリー小説の世界は奥深そうだ。
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増田忠則「マグノリア通り、曇り」

2021-04-16 17:45:07 | Weblog
★ 増田忠則さんの「三つの悪夢と階段室の女王」(双葉社)から「マグノリア通り、曇り」を読んだ。この作品は2013年、第35回小説推理新人賞受賞作だという。なかなかよくできた作品だったと思う。

★ 「娘さんを預かりました」と男から電話があった。主人公(斉木という)の小学3年生の娘が誘拐されたのだ。男は斉木にマグノリア通りに来るように要求する。狙いは身代金ではないらしい。

★ 斉木が要求通りマグノリア通りへ行くと、男はビルの屋上におり、「飛べ」「死ね」とヤジが飛べば、飛び降りるという。男が飛び降りてしまえば、監禁されている娘の居場所がわからなくなってしまう。

★ 異様な雰囲気を感じて、やじ馬が集まってきた。心無いヤジが始まった。やがてそれはうねりとなる。もはや斉木の叫びも警官の制止もそれを止めることができない。男は斉木にさらに理不尽な要求をする。斉木は犯人の要求に従うのか、そして娘は無事に救出されるのか。

★ 犯人の動機がイマイチわからないが、電話を通して斉木と話す男の声は、まるで悪魔のささやきのようだ。斉木を含む群集への恨みが動機なのか。

★ 自分勝手な理不尽な犯罪だが、もし私が斉木の立場だったらと思うと、背筋が寒くなる。「悪魔」に選ばれないことを祈るばかりだ。

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奥田英朗「名古屋オリンピック」

2021-04-15 21:23:21 | Weblog
★ 政権与党の幹事長がオリンピック中止に言及した。開催予定まであと100日。いよいよ「そちら」に舵が切られるのか。ところで、中止ってどういう手続きになるのだろう。1940年のときは「返上」という形だったとか。当時とは規模も違うし、様々な利権が絡んでいるからなぁ。やめたらやめたでモメそうだ。

★ こんな折、奥田英郎さんの「東京物語」(集英社文庫)から、「名古屋オリンピック」を読んだ。奥田さんの作品は読みやすくて面白い。

★ 「名古屋オリンピック」とは懐かしい。物語は1988年の開催地が決まる1981年9月30日の出来事を記している。

★ 名古屋出身の主人公。父親が経営に失敗し、仕送りを断たれ、大学を中退した。特段、大学に思い入れがあったわけでもないので、あっさり退学して小さな広告代理店に就職した。21歳、まだまだ若造だが、広告業に適性があったのか、部下(その部下も20歳と21歳。年配者は敢えて避けた)を持つまでになった。

★ その部下たち、仕事ができない。いや、主人公ができすぎるのか。部下たちの尻ぬぐいに走り回る毎日。遂には部下をクビにしようかと考えた。しかし、そんな時、自らが担当した商品のコピーについて親会社のクライアントからクレームが入る。キツイお叱りを受けながら、主人公は自らの至らなさに思いやる。

★ そうこうしているうちに、IOC総会は、開催地にソウルを選んだ。前評判を覆す結果だった。


★ 名古屋オリンピックとは懐かしい。私は作品の主人公と同年代なので、ライブで総会の模様を見ていた。「ソウル」と発表されたときの韓国側と名古屋のスタジオの明暗が印象的だった。名古屋はまるでお通夜のようで、開催地決定を確信していた出演者の涙が印象に残っている。

★ 事業に失敗した主人公の父親はオリンピックの誘致に再起を賭けていたようだが、その後どうなったやら。さて、東京オリンピックの行く末は。 

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久和間拓「エースの遺言」

2021-04-14 21:08:09 | Weblog
★ 久和間拓さんの「エースの遺言」(双葉社)から表題作を読んだ。この作品は2016年、第38回小説推理新人賞受賞作だという。

★ かつて監督を務め、チームを甲子園の決勝戦まで進めた男。ある出来事があって、監督を退き、教職も辞して25年。プロへ進んだかつての教え子の引退の式典に、重い心を引きひきずって出席した。もしかすると、そこである人物と会えるかも知れないから。

★ 公立高校としては異例の決勝戦進出。それは屈指のエースを抱えていたからだ。しかし、彼に頼り過ぎた。全試合ほぼ一人で投げ切った彼は疲弊していた。試合には勝ちたい。そのためには彼が登板しなければなるまい。しかし、ここで故障でもすれば、プロへの道、彼の前途が立たれる。監督は苦渋の決断で彼を先発から外そうとするが、その時、エースは登板を懇願する。自分にとってこれが最後の試合となる。プロへは進まないというのだ。

★ あまりの気迫に、監督は折れ、彼にマウンドを託したのだが・・・。

★ ギリギリの場面の中で戦った者同士にしか分かり合えないものがある。「エースの遺言」とは何だったのか。なかなか面白い作品だった。
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ドラマ「流行感冒」

2021-04-13 23:22:42 | Weblog
★ 先日NHK-BSで放映された「流行感冒」を観た。志賀直哉による原作を読んでいたので、ストーリーはわかっていたが、主人公役の本木雅弘さんに魅かれて観た。

★ 「流行感冒」とは「スペインかぜ」(新型インフルエンザ)のこと。多くの若者が免疫機能の暴走によるサイトカインで亡くなったんだったかな。戦死よりも病死の方が多かったとか、この疫病によって戦争が早期に終息したなどとどこかで聞いたような。

★ 主人公は1人目の子を新生児で亡くしているから、次に生まれた子には過保護と言うほど気を使っていた。それでも「流行感冒」は襲ってくる。

★ 感染を防ぐために白湯を飲めばよいと言った迷信は、昨年も聞いたような。そんな風評も昨今は影を潜めたが、それは庶民が利口になったというようりかは、危機意識が薄れたせいだろう。

★ 大阪の新規感染者が1日1000人を超えたと話題になっているが、それよりも最近気になるのは、インドとフランスの感染者急増だ。桁が違う。インドの場合、人口比に換算するとそれほど多くはないが、遂にブラジルを抜いた。新型コロナ発祥の地と言われる中国での新規感染者数の少なさは不思議なくらいだ。

★ 大阪のオーバーシュートは近隣府県に波及しつつある。兵庫県の「うちわ会食」などの迷走は、官邸官僚に翻弄されたアベノマスクに似ている。危機管理の首脳部も混乱しているようだ。「まん延防止」などまん延が起こる前に、あるいは極めて早期に対応してこそ効果を発揮するのだが。休業補償の財源がないんだろうね。

★ さて、「流行感冒」、普段はあまり役に立たないが、ここぞというときに活躍する女中・石を演じた古川琴音さんが魅力的だった。  
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ドラマ「盗まれた顔」

2021-04-12 16:21:07 | Weblog
★ ドラマ「盗まれた顔」(2019年)を観た。原作は羽田圭介さん。

★ よく交番などで指名手配犯のポスターを見かけるが、街中で彼らを見つける「見当たり」という捜査をしている警察官が主人公。

★ 数百人と言う顔を記憶する能力と言うのはすごい。私など年を追うごとに人の顔がわからず、名前が出てこず、随分と失礼を重ねている。優れた能力をうらやましく思うのだが、覚えたら忘れられないというから、それはそれで苦痛のようだ。

★ 主人公の白戸警部補役に玉木宏さん。日常の見当たり捜査に、かつての先輩で殉職したはずの人物や中国人マフィアに公安が絡むという地味なような派手なような、何とも言えないドラマだった。

★ 遠からず顔認証システムで、AIが指名手配犯(それだけではなく警察が意図的に探す人物)を見つける時代が来るんだろうなぁ。便利なようで恐ろしいようで、要は使いようか。


★ さて、京都も今日から「まん延防止の重点措置」だとか。といって大きくは何も変わらず、京都市内で飲食店の時短が1時間早まったぐらいか。危機感があるのかないのか。すっかり自粛慣れしたからね。真剣にまん延を防ぐのなら、小中学校はともかく、高校や大学は休校か、せめて時差登下校か、午前午後や曜日で分散し、動く人を減らした方がいいんじゃないかなぁ。
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青野暦「穀雨のころ」

2021-04-11 16:08:03 | Weblog
★ 「文學界」5月号から文學界新人賞受賞作、青野暦さんの「穀雨のころ」を読んだ。

★ 芥川賞への最短距離とも言える新人賞。どうも今年は低調だったようだ。 

★ 穀雨というのは4月20日頃の春雨を言うらしい。ストーリーは東浩紀さんの選評で要約されている。女子高生2人が男子高校生2人と出会って恋をする話。

★ 新人賞発表の文芸誌の楽しみは、その選評だ。中には「ここまで言うか」というものもあるから、先輩文士は恐ろしい。この作品の評価はあまり芳しくなかったが、長嶋有さんの強い「推し」で受賞に至ったとか。

★ 私も読んでみて、高校生のある日常を描いているだけで、自分とは関わりないなぁと言う感想をもった。日常の「スケッチ」と言われればその通りなのだろうが。

★ まず主人公らしき「ハツ」と言う人物が男なのか女なのかわからなかった。昨年の三木三奈さんの「アキちゃん」もそうだったが、いくらジェンダーの時代とは言え、作品の入り口で入りにくかった。(「アキちゃん」は、そこが狙いなのかも知れないが。)

★ 「穀雨のころ」で魅かれたのは、のり弁当のつくり方と雑炊のつくりかた。ハツにとっては少々味気なかったようだが、楕円形のわっぱに詰められた二層のおかかや海苔がおいしそうだ。これに軽く炒めた豚バラか牛コマのトッピング、いいねぇ。

★ 雑炊には味噌を入れるんだ。薬味を振りかけて、疲れた胃には沁みるうまさだろうね。どうでもいいような男女関係よりも、こっちの方に魅かれた。作者には申し訳ないが。
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翔田寛「影踏み鬼」

2021-04-10 17:32:10 | Weblog
★ 大阪、兵庫の感染爆発は勢いが止まらず、数理統計によるとこれから恐ろしい局面になるとも。

★ 東海道新幹線や本線が止まり、国道1号線を始めとする道路が自衛隊によって封鎖され、大阪市や神戸市周辺が隔離される。人の姿のない梅田や難波や三宮、緊急車両の姿しか見られない御堂筋、そんな光景が目に浮かぶ。映画の1シーンのようだ。現実にならなければよいが。

★ さて、翔田寛さんの「影踏み鬼」(「小説推理新人賞受賞作アンソロジーⅡ」双葉文庫から)を読んだ。

★ 狂言の脚本を手掛ける師匠と弟子、その師匠が語る昔話。その話の中で繰り広げられる主人と使用人(手代)の話。多層的な構造の上に、次から次へと新たな事実が暴露されるので、土曜の昼下がりに読むのは少々酷だった。数学Ⅱの問題を解くように、頭の冴えたときに整理し直さないと。

★ 設定は時代劇だが、現代劇的なテイストがある。児童誘拐(かどわかし)とその誘拐をめぐるドロドロとした人間ドラマ。翔田さんの後の作品(「誘拐児」「真犯人」)にも引き継がれるようなテーマだ。

★ 結構救いのない顛末だが、果たして人が語ることのどこまでが真実でどこからが誇張なのか。「講釈師見てきたような嘘を言う」と言うからね。
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