じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

森浩美「アジサイ」

2018-04-28 16:59:49 | Weblog
☆ 森浩美さんの短編集「家族の分け前」(双葉文庫)から「アジサイ」を読んだ。

☆ 主人公は大手印刷会社に勤めていたが、30歳で独立、起業する。最初は順風満帆だったが、経営環境が変わって経営が苦しくなってきた。持ち前の人の好さ、見栄っ張りなところは、順調な時には長所にもなるが、守りに転じれば悪い面ばかりが目につく。そのせいで、夫婦喧嘩が絶えず、子どもたちも反抗的。家族はバラバラになってしまった。

☆ そんな時、彼はふと実家のアジサイを思い出し、久しぶりに独居の父親を訪ねることにした。そこで見せられた母親のメモには胸が熱くなる。夫と幼い子どもを残してこの世を去らねばならなかった悔しさと諦めがにじむ。

☆ 家族は重荷にもなるが、家族がいるから頑張れる。そんなことを感じた。
コメント

東野圭吾「さよなら『お父さん』」

2018-04-28 11:10:57 | Weblog
☆ 東野圭吾さんの短編集「あの頃の誰か」(光文社文庫)から「さよなら『お父さん』」を読んだ。

☆ 妻と娘が飛行機事故で瀕死の傷を負う。妻は亡くなり、娘は生き残った。意識を回復した娘は「あなた」と言った。妻が娘の体に・・・。ということで、あの名作「秘密」(文春文庫)の原型だ。

☆ 文章がうまい。流れがスムーズだ。だから奇想天外な設定も違和感がない。妻と娘をどう描き分けるか、難しかっただろうなぁ。

☆ 「秘密」をダイジェストで読みたい人にはお勧めだ。じっくり味わいたい人は「秘密」をどうぞ。
コメント

恩田陸「図書室の海」

2018-04-28 10:31:10 | Weblog
☆ 恩田陸さんの短編集「図書室の海」(新潮文庫)から表題作を読んだ。

☆ 図書室というのは本好きにはたまらない設定だ。主人公の通う図書室はまるで帆船のようだという。その中で展開されるコイバナやちょっと怖い「学校の怪談」。この作品は「六番目の小夜子」(新潮文庫)のスピンオフ。もはや「サヨコ」は伝説になっている。
コメント

三浦しをん「永遠に完成しない二通の手紙」

2018-04-28 10:17:05 | Weblog
☆ 落語に「代書屋」というのがある。そんな物語。

☆ 三浦しをんさんの短編集「きみはポラリス」(新潮文庫)から「永遠に完成しない二通の手紙」を読んだ。会話が面白い。思わず吹き出してしまう箇所がいくつもあった。

☆ 主人公がインスタントラーメンを食べようとしていた時、幼馴染の男がズケズケと上がってくる。ラブレターを書くのを手伝ってくれというのだ。それから始まる漫才のような会話。最後はちょっとしんみり。主人公にも何か過去がありそうだ。
コメント

森鷗外「沈黙の塔」

2018-04-28 08:54:11 | Weblog
☆ 京都新聞に映画監督・篠田正浩さんのインタビュー記事が載っていた。そこで紹介されていたのが森鷗外の「沈黙の塔」。さっそく「青空文庫」で読んでみた。

☆ 主人公の「己(おれ)」は海岸に立つ高い塔を見ている。その塔にひっきりなしに何かが運び込まれていく。塔の上には鴉が群がっていた。

☆ ホテルに帰った己は安楽椅子に座り新聞を読んでいる男に話しかける。その男に先ほど見た塔のことを告げると、それは「沈黙の塔」だと教えてくれる。そして運び込まれていたものは死骸であり、一族の中で危険な書物を読む奴(やつ)を殺しているのだという。

☆ どんな本だというと自然主義と社会主義の本だという。それらが安寧秩序をみだすというのだ。そのあと具体的な書名が紹介され、それぞれに批評がなさせる。

☆ 芸術や学問は因習を破るためにある。それを排除すれば平凡きわまるものしか残らないと己は考える。そして名言を吐く。「どの国の、いつの世でも、新しい道を歩いていく人の背後には、必ず反動者の群れがいて隙を窺っている。そしてある機会に起って迫害を加える。ただ口実だけが国により時代により変る。危険なる洋書もその口実に過ぎないのであった」

☆ 何という卓見だろうか。感心する。
コメント

東大も英語民間テスト活用へ

2018-04-28 07:28:45 | Weblog
☆ 各紙面は朝鮮半島の南北首脳会談が1面を飾っている。

☆ それに比べればはるかに小さい記事だが、東京大学が新たに始まる「共通テスト」で英語の民間テストを活用すると報じている。

☆ 3月ごろだったか副学長が「採用せず」を発表し話題になっていた。多分その後各方面から圧力がかかったのだろう。方針転換のようだ。

☆ 何やかやと言っても東京大学は日本の教育機関の頂点だ。東京大学で民間テスト採用となると他の大学も右に倣えとなりそうだ。


☆ ところで方針転換と言えば、日銀の物価目標2%達成の時期が削除されたという。6回も延期されていたから、さすがに7回目は厚顔無恥の至りだ。ようやく看板を下ろしたのだと思うが、金融政策も行き詰まりを感じさせる。

☆ 以前に必ず雨を降らせる祈祷師の話を書いたが、日銀総裁もこれに倣うよりなさそうだ。そりゃいつかは2%達成なるでしょう。そのとき「ほら、達成できたでしょ」と豪語するのか。記者たちのシラケた表情が目に浮かぶ。
コメント

桜庭一樹「このたびはとんだことで」

2018-04-28 06:55:00 | Weblog
☆ 桜庭一樹さんの短編集「このたびはとんだことで」(文春文庫)から表題作を読んだ。

☆ 2人の女。妻と愛人。「俺」の前で火花を散らす。言葉は穏やかだが、心の中は煮えたぎっているに違いない。

☆ そして、物語は奇想天外な方向に。本当にとんだことになってしまった。

☆ モテる男はつらいね~。
コメント

長野まゆみ「鳩の栖」

2018-04-27 22:02:16 | Weblog
☆ 長野まゆみさんの短編集「鳩の栖」(集英社文庫)から表題作を読んだ。

☆ 転校というのは子どもにとって一大イベントだ。すでにできている人間関係に突然ひょっこり入るわけだから無理もない。見知らぬ人々の中で緊張感も最高潮。そんな時声をかけてくれる人がいればどれほど力強いだろうか。

☆ この作品の主人公・安堂操は何度も転校を経験しているようではあるが、やはり転校初日は緊張する。そんなとき一人の同級生が声をかけてくれた。名前は樺島至剛という。彼のお陰で無事に1学期をすごくすことができた。

☆ しかし、その樺島至剛は学校を休みがちになる。誰もはっきりとは言わないが病状は重いようだ。クラスメイトが何度か見舞いに行く。樺島家の庭には水琴窟があり、樺島はその音を聞くのを楽しみにしている。

☆ 樺島は安堂の音を好んだ。樺島はだんだん透明になっていく。自らの死期も予感していたのであろう。透き通っていく命と水琴窟の音色が美しくも悲しい。

☆ 鳩は夭折の少年を象徴するかのようだ。静かな作品だった。
コメント

中村文則「A」

2018-04-27 18:33:43 | Weblog
☆ 中村文則さんの短編集「A」(河出文庫)から表題作を読んだ。わずか10ページ余りの作品。しかし、度肝を抜かれた。

☆ 何なのだろうこの感覚は。甘ったるい小説とは次元を異にしている。日常から最も遠いところにあるものが日常である状況。

☆ 具体的な状況が場面として採用されているが、その背後により深い何かが秘沈されているように思う。

☆ 人間とは何か、社会とは何か。理屈をこねまわしてみても結局は自己保全であるようにも思う。自分が生きるために他人を殺す。その自分も明日は殺されるかもしれない。

☆ 私たちが見ないでおこう忘れようとしていることをこの作家はえぐりだしている。中村文則さんの作品は今まで読む機会がなかったが、他の作品もすごそうだ。
コメント

重松清「みぞれ」

2018-04-27 16:59:37 | Weblog
☆ 重松清さんの短編集「みぞれ」(角川文庫)から表題作を読んだ。泣ける。

☆ 脳梗塞で倒れた父親。一命はとりとめたが、歳と共に弱っていく。父の世話は母が務めるが、母も老いてきた。妹は父母の近くに住んでおり同居を勧めるが、両親は嫌がる。それが遠くに住む長男の主人公には気に入らない。

☆ 帰省するとどうしてもキツイ言葉を言ってしまう。わかる。これは肉親だからなのだ。両親もそれはわかっているから、聞き流してくれる。

☆ 主人公は40代だというがまだ若い。何とかしようともがいている。この気持ちもわかる。ただたとえ体が動かなくなり言葉を失っても父親の人生は父親のものなのだ。母も弱って父親の世話が大変になってきても世話をすることが母の人生なのだ。それを奪うことはできない。主人公もあと数十年たてばその気持ちはわかるだろうし、息子のキツイ言葉も微笑んで受け止めることができるだろう。

☆ 「みぞれ」、この言葉に込められた想いに泣ける。

☆ 人は老い、やがては死を迎える。それは誰も避けられない。あるがままを受け入れること、結局はそれが幸せだと思った。
コメント