じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

三浦哲郎「鳥寄せ」

2019-04-27 07:44:18 | Weblog
★ 三浦哲郎さんの「木馬の騎手」(新潮文庫)から「鳥寄せ」を読んだ。本が絶版なのか手に入らないのでKindleで購入した。

★ この作品、かつて共通一次テストに出題され、受験者の中には感動して涙した人もいたという。

★ 「鳥寄せ」とは鳥を寄せる笛のこと。私が想像するにパンフルートのような感じだろうか。舞台は田舎の寂れた農村。12歳の子どもの語りで話が進む。

★ 祖父と両親、それに弟の5人家族。貧しいながらも普通の農家だったが、何があったのか(そこは具体的には語られていない)、悲劇がこの家族を襲う。

★ まず飼育していた3匹の豚が売りに出された。次に牛も売られた。経済的な困窮が感じられる。父親は他の村人と共に町に働きに行くが、慣れない仕事でへまを繰り返し、途中で村に帰ったという。しかし村には帰ってこなかった。後に村の近くの裏山で遺体が見つかる。カバンの中には家族への土産が。家まで目と鼻の先まで来て、どうして父親は命を絶たねばならなかったのだろうか。

★ 母親は身重だったが死産する。その頃から母は精神的に不安定になり、鳥寄せの笛を吹いては夫が帰ってきたとニコニコしている。その母親もある日家を出て深い森に入り行方不明となる。祖父は口をきかなくなる。「炉端の石地蔵」と表現されている。

★ 今では「おら」が鳥寄せの笛を吹いている。「おらは、母ちゃんのように気が触れているわけではありゃせん。こんなことをしても無駄だとわかっているのですが、日が落ちると、とてもこんな鳥寄せの笛でもならさないではいられないのです」と語る。

★ 鳥寄せの笛の音が心に沁みる。
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