じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

福永武彦「廃市」

2023-01-21 20:01:18 | Weblog

★ 新聞で小谷野敦さんの「直木賞をとれなかった名作たち」(筑摩書房)の広告を見て、心ひかれた。先日、今期の芥川賞、直木賞の発表があったが、受賞作の影には候補作があり、中には何らかの理由で候補にも上がらない名作がある。

★ 早速、小谷野さんがどのような作品を選択されているのか、目次を見る。既に読んだ本もあるし、聞いたこともないような本もある。そのリストの中から、今日は福永武彦さんの「廃市」を読んだ。

★ ある田舎町が大火で焼けたと聞いて、主人公は10年以上前、その町に滞在したひと夏の出来事を思い出す。

★ 当時、主人公は大学生で卒業論文を仕上げるためその町に滞在していた。そこで出会った姉妹。姉は結婚していたが夫とは別居中だという。夫は外に愛人がいるとも。妹は決して美人ではなく、どちらかといえばお転婆だが、主人公は仲良くなる。

★ そして、姉の夫は同棲している女性と心中。30歳にして人生に疲れたという。

★ 姉、姉の夫(義兄)、妹、夫の同棲相手、それぞれがお互いを思いやっているのだが、どこかで歯車が狂ってしまった。

★ いわば通りすがりの主人公もこの家族の転落、そして死にかけている町に巻き込まれていく。

★ 毎日が同じ繰り返し、よく言えば安定しているが、悪く言えば変化のない町。よどんな水が腐るように、時代から取り残され、やがては忘れ去られるかのような町。

★ 「・・・要するに 一日 一日 が 耐えがたい ほど 退屈 なので、 何かしら 憂さ晴らし を 求め て、 或いは 運河 に 凝り、 或いは 音曲 に 凝る という わけ です。 人間 も 町 も 滅び て 行く ん です ね。 廃市 という 言葉 が ある じゃ あり ませ ん か、 つまり それ です。」(新潮文庫) 

★ 私にとって決して読み易い文章ではなかったが、叙情豊かな表現は魅力的だった。

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