★ 文豪と言えば漱石、鷗外。私は鷗外の文体の方が好きだ。今日は森鷗外の「阿部一族・舞姫」(新潮文庫)から「余興」を読んだ。
★ 主人公(鷗外)は同郷の先輩に誘われて宴会に顔を出した。こうした宴会は、ちょくちょく催されているようだ。会場は花街の料理屋で、主人公は馴染みがない感じ。
★ 宴会の余興(あるいはこれがメインのイベントだが)は、浪花節。演題は赤穂浪士の討ち入り。幹事の陸軍少将畑閣下は浪花節の愛好者である。
★ 演者はへき邪軒秋水。由比正雪のような風貌である。
★ ところで、主人公は浪花節に全く興味がない。独特な語りは耳障りで、伴奏の三味線がまた神経を逆なでる。退屈この上なく、退席の誘惑に幾度となく襲われるが、先輩諸氏のご厚意を無にするわけにもいかず、死を決して耐えたという。
★ 長い時間が経過し、やっと演目が終わった。心にもなく拍手などを送った。場面は宴会へ。
★ 酌にやってきた若い芸者、主人公が拍手する姿を見ていたらしく、浪花節を好んでいると誤解されたようだ。そのことが彼にはショックだった。心にもない行いをしてしまったと。
★ どうでも良いような出来事だけれど、そんなことを思い悩む主人公が興味深かった。鷗外の自嘲なのだろうか。