じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

城山三郎「逃亡者」

2020-09-21 20:31:19 | Weblog
★ 城山三郎さんの「逃亡者」(新潮文庫)から表題作を読んだ。

★ ある大工場に刑事がやってきた。戦前、その工場が軍の燃料廠であった時、徴用工として働いていた朝鮮人の男を探しているという。その男は、戦時中、窃盗と国家総動員法違反で逮捕、拘留中であったが、空襲に紛れて脱走したという。

★ 戦後、その工場は払い下げられ、所有者が転々。かつての時代を知る者は、もはやいなかった。隻腕の守衛の男を除いては。

★ 刑事、守衛の男、彼らの教師だった男と三者の話を通して、彼らにとっての戦争、そしてその状況下でのそれぞれの立場が話される。

★ 「戦争というのは、男も女も血まみれになって、空へ吹き飛ぶことなんだよ。人間が生きながら燃えるということだよ。残った人間も、ぼろぼろになってしまうということなんだ。そして、中将だけが、馬に乗って颯爽と女の家へ通い、軍人恩給でぬくぬくと余生を送ることなんだ」(162-163頁)

★ 印象に残る文章だ。戦争の実相が描かれている気がした。

★ さて、「逃亡者」はどうなったか。もはや彼を裁く意味がなくなったらしい。守衛の複雑な思いも印象的だった。
 
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菊池寛「形」

2020-09-21 15:23:28 | Weblog
★ 中学3年生の国語、中間テストのテスト範囲に菊池寛の「形」が入っていたので読んだ。

★ 時は戦国時代、覇権を争う畿内。摂津の国の侍大将、中村新兵衛は「槍中村」と誉れが高く、その猩々緋(しょうじょうひ)の羽織と唐冠のかぶとを見ただけで、敵兵は震えあがったという。

★ ある日、初陣を飾る若侍が、新兵衛の装束を借りて手柄を立てたいと懇願し、新兵衛は笑って許した。「槍中村」の姿に敵兵はかき乱され、若侍は手柄をあげた。一方の新兵衛は、黒革縅(おどし)の鎧に、南蛮鉄のかぶとという地味な姿。一武将と化したその姿に敵兵はひるむことなく、遂に敵の槍に射抜かれたという。

★ 敵兵は新兵衛の実体ではなく、その姿、「形」を恐れていたのだ。それに気づかなかったことが新兵衛の悲劇だと言える。新兵衛老いたり。過去の栄光に自己を見失ったか。

★ 「形」と言えば、敵機を恐れさせた「レッドバロン」を思い起こす。人は案外、見かけに弱い。この作品が教えるものは、見かけにだまされるなということ、そして、「形」を驕って、自分自身を見失うなということ。

★ 文豪にも駄作はあるということか。

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