goo

5000円(2)

 それから1週間、信用金庫から連絡はなかった。電話をした時は、信金にしては珍しく機敏な対応をしてくれたものだと見直したのだが、1週間もほかりっぱなし・・、やっぱりダメじゃん・・、とブツブツ言い始めた頃、たまたま伯母の家に行ったところ、信金の職員が集金に来ていたのに出会った。これはグッドタイミング!と、初めて会った人であったが、事情を説明してみた。
「そんなことがあったんですか」
とまるで知らなかったようなので、信金内部では結構問題になっているんじゃないだろうか、と心配していた私は些か拍子抜けしてしまった・・。
「それはいかんですね。すぐに電話してみます」
と失点を回復しようとしたのか、思いもかけぬ迅速さで事が運んだ。

「ええ・・、そうですか・・。じゃあ、直接話してもらった方がいいですね」
と言いながら、私に電話を渡してきたので、何か進展があったのか、と少々意気込んで電話を受け取った。
「あれから、ずっと電話しておったんですが、あちら様が出られなかったもんですからご連絡ができなかったんです。申し訳ありません」
と、事務的な調子で話し始めた。
「ところがですね、やっと昨日電話が通じて、事情を説明したんですが、自分は知らないとの返事でして・・」
「まあ、そう言うでしょうね、ふつう」
「ええ、キャッシュカードの名義人とは今は一緒に暮らしていない、連絡先も分からないとのことでしたので、それ以上は言えなくて・・」
「そりゃそうでしょうね」
「はい、申し分けありませんが、そういうことでこれ以上はちょっと・・」
「はい、分かりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「いえ、とんでもございません」
「ありがとうございました」
と、最後は儀礼的な挨拶で締めくくったが、心の中では唖然としていた。
「なんて言い訳・・」
 電話の内容を妻や伯母に話したが、「すごいね・・」と呆れるばかりだった。キャッシュカードの名義人の所に電話したはずなのに、電話に出た人がその名義人と連絡が取れないなんてことがあるんだろうか?言い訳にしても、もっと納得できることを言えばいいのに・・。子どもの言い訳みたいで、アホらしくなって苦笑するしかなかった・・。
 
「こうなるともう警察の領域になるものですから、ウチとしては手が出せないですね・・」
と、信金職員は申し訳なさそうに言ったが、警察沙汰にする気など初めからない私は、
「5000円くらいで警察に訴えるのもなあ・・」
と思わず口走ってしまったが、職員がすぐに
「5000円は大金ですよ。余程の大金でなくっちゃ5000円の利子は付かないですよ」
とたしなめてくれたので、
「そうだよねえ・・。やっぱり勿体ないなあ・・」
と本気で5000円を取り戻したくなった。くそお、返せよ!!と己の失敗をしばし忘れて、憤った・・。

 5000円あったら、ヤシの木が一本買えるよなあ・・・。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする