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代表選

 「むかし夏のことなるに、梢の風の涼しき所にせみありて、何心もなく吟じて侍りしを、かまきりこれを見つけて、かのせみをとらんとて、ひぢをいからし、口わきをうごかして、ねらひよる所に、すずめまた、かまきりをとらんとて、枝をつたひ羽をつくろふ。かかりしところに、えさし来たりて、すずめをささんとして、さしざほをよこたへ、ねらひより、足もとの沼にふみこみて、泥まぶれになりたり。されば、えさしはすずめを見て沼をしらず、すずめはかまきりを見てえさしをしらず、かまきりはせみをねらひてうしろにすずめまのある事をしらずと、いへり。万事これにて分別すべし。前なる欲にうしろなるわざはひをわすれ、心にまかせてわたくしをかまふ。これをおもひめぐらし、のちのわざはひをかへりみて、しばらく堪忍をおこせば、欲の火は消ゆるものなり」

 中3生用の夏期講習の国語のテキストにあった、江戸時代の浅井了意という僧による文章であるが、なかなか寓意に満ちていて、現代を生きる私たちにも示唆することが多いと思う。特に代表選が始まった民主党議員の面々に熟読してもらいたい内容だ。

 政治家たる者、第一義とすべきものは国民の安寧な暮らしであるはずである。代表選に立候補した小沢一郎が一年前の衆議院選挙で強調したのが「国民の生活が一番」だったのは、政治家の本分を見事に言い当てた言葉だった。しかし、政権交代後、次々と不明朗なお金の収支が明らかとなり、その責任をとって幹事長職を辞めねばならなかったのは、余りに国民の生活と乖離した金銭感覚が最大の原因だったように思う。菅政権発足後、自らとその周辺の議員たちが冷遇されているのに我慢ができなくなり、代表選に打って出たと言われているが、果たして今現在の小沢一郎の胸中には「国民の生活が一番」という思いはどれだけあるのだろう。今の私には、
 「前なる欲にうしろなるわざはひをわすれ、心にまかせてわたくしをかまふ」
という精神状態であるように見えて仕方ないのだが・・。

 一方、菅直人にしても、参議院選挙で「消費税10%」をぶち上げて、民主党惨敗を招いた以外には、一国の首相として何かをなし遂げたという印象がまったくない。「脱小沢」を錦の御旗に掲げて政治運営を図ったのに、かえってそれが代表選のゴタゴタを招いたのだから、どこまで先を見越しての行動だったのか、はなはだ疑問に思う。 
 「のちのわざはひをかへりみて、しばらく堪忍をおこせば、欲の火は消ゆるものなり」
という文言によって、菅直人の拙速気味な政治手法に警鐘を鳴らしておくべきかもしれない。


 しかし、この代表選によって、政治空白が2週間も続くことになることだけは避けなければならない。代表すなわち首相の座を射止めんがために背後から迫りくる円高・株安を始めとした様々な難題に十分な対応ができないのだったら、代表戦など呑気に行っている場合ではない。このところ、やたら民主党議員たちが拳を振り上げて「ガンバロウ!ガンバロウ!」と連呼する場面をTVで見たが、いったい彼らは何のため、誰のために頑張ろうとしているのか、皆目分からなかった。国会議員というよりは、一時代前のデモ隊のようで、時代錯誤な気がして仕方がなかったのは私だけではないだろ・・。
 
 それでもまだ、密室の談合によって次の総理大臣が決まってしまうよりもよかったとは思うのだが・・。

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